Manchester by the sea そのままこれが地名なのだそうである。
冒頭、美しい川を往くボートで交わされる大人と子供の会話。どうやら親子ではなくおじさんと甥っ子の関係らしい。どうということのない会話。そこから雪の季節の別の町へ。冒頭のボートのシーンと一見無関係な、一人の男の雪かきの様子。水道工事の仕事、そして何度か雪かきがリフレインする。偏屈で無愛想なこの男が、冒頭のボートの釣り人であることは後ほどわかる。無愛想で常に不機嫌なこの男、リー(ケイシー・アフレック)の現在と、家庭を持ち、陽気で無駄話が際限ない彼の過去の日々が交互に描かれ、やがて彼の心を閉ざしている理由へと突き当たる構成が見事。
喪失と不在がもたらす心の有り様を丁寧過ぎるほど丁寧に描くロナーガン監督。リーの兄、ジョーが心臓発作で死んだあと、一人残った長男(つまり、ボートに乗っていたリーの甥っ子)が、父の死の直後にもかかわらず平然と日程をこなして過ごす不可解が、不可解でなくなる瞬間(冷凍庫の鶏肉のくだり)に息を呑んだ。
ちょっとショーン・ペンの「インディアン・ランナー」('91)を思い出したが、ペンのナイーヴさに比べるとこの監督は俯瞰的で精神医学的だ。
企画不足で行き詰まっているアメリカ映画の表現の領域の幅を広げたと言っても過言ではない佳作。脚本と主演男優でオスカー獲得は納得できる。お勧め。