冨永監督は'75年生まれとのこと、ということはここに描かれている時代には十代だったということで、末井昭という人物よりも彼の営むエロ雑誌の編集部に赤電話から電話している高校生の方に近かったという訳だ。リフレインするあのシーン、素敵だった。そういう点では私の方が完全にあの時代と並走していることになる。「写真時代」の出版元、白夜書房が高田馬場にあったことも知っている。よく前を通っていたからだ。
なので、あの時代の空気感をよくも克明に再現したものだと美術部(須坂文昭)の仕事ぶりに感動を禁じ得ない。ロケーションも苦心惨憺したであろう、都内に'80年代の風景がいかほど残っているのか。そしてあの頃いた、ああいう人々。本当にいた。役者はみんな素晴らしい。三浦透子、刮目だ。あの精神病院のロケセットも良い。
AV以前、デジタル以前のニッポンのエロゴト師。そう、今村昌平の「人類学入門」('66)の'80年代版であり、キラキラ、ギラギラのバブルではない昭和の残り香が芳しい。
何故か全員レンズが曇っている眼鏡、包帯や眼帯への偏執、センスの良いタイトルデザイン、「協力:泉じゅん」の粋なクレジット、そして最後の映倫マークの洒落も楽しい。
佳作、お勧め。
原一男のネットde「CINEMA塾」#007 ゲスト:末井昭さん