映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「さよならテレビ」監督・圡方宏史 at 第七藝術劇場

sayonara-tv.jp 学生時代から私と長く一緒に活動して来たテレビマンの友人が昨年引退して転職した。本作で東海テレビ報道部に派遣されて来るディレクター渡邊氏に近い立場だ。ミスを連発し、契約は一年で切られてしまう渡邊氏だが、友人から聴いたいくつかのエピソードがそっくりそのまま本作に出て来ていた。ワンオペで生じるミスがそうだ。

 渡邊氏はまだ二十歳代のようで、東海テレビの契約を切られた後、テレビ大阪と契約して仕事をしている様子が映る。社員Dである圡方氏に契約社員の澤村氏が「年収300万の気持ちが分かるか」と問いかける。テレビ制作の内幕を捉えている社員が既得権益側であり、潤沢なサラリーを捨ててまで改革が出来るのかと迫っているに等しい。彼らは絶対にそれをしない、出来ない。サラリーを下げてその分契約社員を社員待遇にすれば「あってはならない」ミスは減るはずだ。本作を撮っている側はそこに着地はしない。

もう一人の取材対象者は夕方ワイド報道番組のキャスター福島氏。

www.tokai-tv.com「リスクを背負ってまで自分の考え方を番組で語りたくない」と語っていた彼は視聴率競争に敗れ、降板させられる。その直後の茫然自失な表情をキャメラは捉え、福島氏が自ら企画した猫の殺処分をめぐる報道で初めて自分の意見を語る。タイムキーパーらしき女性が「番組を辞めることが決まってから良い事言うようになった」みたいな事を呟く。重大な放送事故以後冒険を恐れてしまったのは彼だけなのだろうか。そんな筈はない。これでは老朽化した部屋の家具の模様替えでしかない。

 これはテレビ局のへの内視鏡検査だ。しかし診断結果を圡方監督は出さない。ラストの契約社員澤村氏の言葉がそれを物語っている。そしてここにあるテレビ局の構造的な問題はメディア全体の問題というよりもっと広範な日本型経営の限界、ひいては文化を廃棄して数字、即ち経済にのみ価値を見出したこの国そのものを指し示しているような気がしてならない。