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「一度も撃ってません」監督・阪本順治 at 神戸国際松竹

eiga-ichidomo.com 観終わって、滅多に買わないパンフレットを買った。

もしかして脚本の丸山昇一氏が何か書いていないか、と思ったからだ。案の定ロングインタビューが載っていて、本作は随分以前に石橋蓮司主演作として書かれたものを進化させたものだと分かった。それにしてもいまだに200字詰めの原稿用紙を使われているとか。その筆致は本作に躍動している。

 カッコ悪いことをしてもカッコ良く見えてしまう松田優作原田芳雄と違って、カッコ良いことをしてもそうは見えない石橋蓮司。ただ松田や原田、あるいは藤竜也がその空気を形成していた80年代邦画ハードボイルドは現代では不可能だ。大体、携帯電話はハードボイルドの死滅に手を貸した。その事に自覚的な主人公は携帯電話を持たない。Macは使いこなすのに。

 大作ではない方の阪本順治作品のメンバーズに桃井かおりが加入。どこかの誰かを演じているというより「桃井かおり」そのものが暴れまくって全部持って行く。そうはさせまいと阪本ファミリーと豪華顔出し俳優陣がクセ玉を繰り出す、それを打ち返す桃井の腕力に感心。桃井と大楠道代の会話に「新宿騒乱が馴れ初め」なんて話しがチラリと出て来ると若松孝二監督、原田芳雄と桃井共演「我に撃つ用意あり」('90)を想起させる。

 松田優作丸山昇一コンビのセントラルアーツ製作作品の数々の匂いプラスロバート・アルトマンの香りが微かに。

この日の国際松竹での邦画予告編で観たいと思う映画は一本たりともなかった。それらを楽しみにしている観客はこの映画を観たいと思わないだろう。

ガキに分かって貰わなくて結構、愉しめる人達との連帯をこそ。佳作、お勧め。

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阪本監督、字が綺麗