映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「カセットテープ・ダイアリーズ」監督グリンダ・チャーダ at シネリーブル神戸

www.imdb.com 「ベッカムに恋して」('02)のグリンダ・チャーダ監督、アフリカ生まれだが名前からしてインド系。英国育ちとのことで本作の原作者とは友人関係だったらしい。映画のラストでこれが実話だという事が分かり、莫大なはずのブルース・スプリングスティーンの権利料も友情と温情でクリアしたらしい。

 1987年のロンドン郊外の町が舞台。パキスタン移民のファミリー、長男のジャバド(ヴィヴェイク・カルラ)の高校入学から物語は始まり、敬虔なムスリム一家、とりわけ父親からの重圧と干渉、近隣住民の民族差別に将来への希望を失いかけていたところ、シーク派インド人の同級生から勧められたスプリングスティーンの曲を聴いて人生観が変わる。

 ジャバドの部屋には「モナリザ」('86)と「戦場のメリークリスマス」(’83)のポスターが貼られている。彼が映画が好きだったのかは本編では全く触れられていないが二作ともジェンダーレスがモチーフの映画、女性監督のチャーダの示すメッセージかもしれない。

 そのチャーダ監督の演出はクサいくらいの浪花節的情念のド直球。古臭い、泥臭いのは確信犯の突然歌い出す踊り出すミュージカル。「ストリート・オブ・ファイヤー」('84)も「フェーム」('80)もあの頃のクサいロックミュージカルだがもっとシャープでカッコ良かった。これはむしろ日本の「アッシイたちの街」('81)に近い、貧しいが清々しい働き学ぶ好青年物語に近い泥臭さだ。差別されたり大学進学を阻まれたりするのは寅さんじゃない時の山田洋次作品のようだ。近所には彼らを応援する人々がいるのも下町人情ものそっくり。

 '80年代後半、折しも英国はマーガレット・サッチャー首相の時代、失業者が溢れ民衆の不満が爆発するのはこれまでも他の映画でたくさん観てきた。本作ではその矛先が移民であるパキスタン人達に向けられる。そのパキスタン人でさえ職を追われているのにそうとは知らずナショナリストという名のレイシスト達が彼らを襲う。家の玄関で小便をされても落書きをされても、更には殴られて服を破られてもパキスタン人達は抵抗しない。真のムスリム は非暴力主義であると黙して主張している。

 ド直球な青春サクセスストーリーはラストまで駆け抜け、めでたしめでたし。観ているこっちが照れくさいくらいだが、本編に何度か登場するBoss=スプリングスティーンの言葉を胸に刻むことにしよう。

Girl, you want it, you take it, you pay the price