映画的日乗

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「82年生まれ、キム・ジヨン」監督キム・ドヨン at 109シネマズHAT神戸

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』オフィシャルサイト

 韓国は戦後の政治のうねりが日本と比べ物にならないくらい激しい。

 傑作「はちどり」は否応なく21世紀韓国の災厄によって左右される人々を描いていたし、「パラサイト」でも格差社会の引き金となっているのは通貨危機である。「はちどり」と「パラサイト」の間の時代に20代の青春期を過ごしたであろうキム・ジヨン(チョン・ユミ)は通貨危機による大不況の最中に就職したということになる。家族を挙げて採用を泣いて喜ぶシーンがあるのもそういう事情からであろう。

 この映画を観るまで日本と韓国の企業の職場事情がこんなにも似通っているとは知らなかった。もっとも私は会社勤めをした事がないので、ここで描かれているようなハラスメントは見たり聞いたりした範囲でしかないのだが。

 それらをいなすジヨンの上司の女性係長がカッコいい。これは「いなせる世代」と耐性が弱くて潰れてしまう世代の違いでもある。

 また家族を巡る嫁姑事情というのも然り、結婚して一児の母となっているキム・ジヨンさんは夫の家族への同調を求められて遂に心が折れてしまう。ここでは「憑依」と表現されているが離人症、解離性同一障害と思われる。

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 ジヨンが憧れたあのかっこ良い係長が独立して企業、ジヨンを新会社に誘う。夫は育休を取って子供を預かると理解を見せる。ジヨンの気持ちはようやく晴れかかるが、姑は息子の育休は出世の邪魔だと激怒する。

 デリカシーのない義母の言葉で悪化したジヨンの症状にようやく実母が気が付く。実母は自分もまた貧困によって重く抑圧された世代であり、夢など諦めるしかなかった。その事をつぶさに娘ジヨンに観察・記憶されていた事に慄然として号泣するシーンが素晴らしい。実母の手の傷が伏線となっているのも見事。

 弟の万年筆を譲り受けてからのラストのジヨンの転身はやや唐突だが、ジヨンを救うエンディングとなっている。

 ジヨンは救われたのかも知れないが、韓国も日本も望ましいとされる社会と先行世代の意識の齟齬はそう簡単には埋まらないだろう。今はまだハラスメントかそうじゃないかをマニュアルで線引きされているだけなのだから。

 佳作、お勧め。