映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「アーニャは、きっと来る」監督ベン・クックソン at 神戸国際松竹

cinerack.jp 先日観たばかりの「エイブのキッチンストーリー」の主役の男の子を演じたノア・シュナップ(2004年生まれ)がNYから南仏ボルドーへ。今度は1942年の羊飼いを演じる。デビュー作はスピルバーグブリッジ・オブ・スパイ」('15)だからサラブレッド、和風に言えば天才子役ってとこか。

 ジョー(ノア・シュナップ)は牧羊中に熊に襲われそうになって愛犬を放って森から村に逃げ帰る。熊は村の猟師に射殺されるも愛犬が気になって森に戻るとベンジャミン(フレデリック・シュミット)という男に出くわす。ベンジャミンは森の中の一軒家に住んでいて、そこには初老の女性オルケイダ(アンジェリカ・ヒューストン)と幼い女の子が同居していた。

 ジョーがこの家を外から覗いているシーンでありゃ、となったのは外から彼が聴いている家の中のベンジャミンとオルケイダの会話のカットでの音声と、家の中の二人の会話のカットでの音声のレベルが同じ、というかずっと続いたままな点だ。そんな訳なかろうが、とまず長編二作目のクックソン監督の仕事に喝を入れたくなる。

 さてベンジャミンはナチの強制収容から逃亡しているユダヤ人。

 生き別れになったままの娘アーニャと再会する為には国境を越えて隣国スペインに逃げなければならない。他にも七人の子供がいる。

 グリム童話「熊の皮」が朗読で引用され、冒頭のエピソードに重なる。

 そして子供達の国境越えと来たら「サウンド・オブ・ミュージック」('65)だ。原作が若い人向けに書かれているらしく、全体的にメルヘンタッチ。照明も明るくどの部屋も綺麗。意識的にリアリズムを避けている。

 村を管理するナチスもさほど荒っぽくない。

 ジョーと鷹見物に行く国防軍伍長(トーマス・クレッチマン)など映画史上最も優しく人間的なナチス下士官だろう。尤も、ジョーの祖父(ジャン・レノ)が武器供出させられる際、伍長は彼に第一次世界大戦であなたの父と戦ったのかも知れないと言う。プロイセン軍属の誇りが残っている古参兵という設定なのかも知れない。

 伍長はベルリンにいる娘を空襲で亡くし、悲嘆にくれる。という訳でナチスがどこかしら牧歌的で優しいのでユダヤ人を逃亡させるフランス人の皆さんの決死の悲壮感はない。史実ではナチスが住民を皆殺しにしたフランスの村は幾つもある。

オラドゥールの虐殺

 類型的な悪虐非道のナチスである必要は無いものの、そんな訳でテレビドラマ風メルヘンタッチは続く。

 子供達の国境越えは半分成功、半分失敗。ジョーは何故ユダヤ人が迫害されなければならないのか大人達に問うが、古文の引用で「そんな事昔から決まっとるんだ」とばかりに誤魔化されてしまうあたりは差別の本質に触れているものの、全体的にディティールの演出が荒いので勿体ない。伍長は何でしばしば非番で私服に着替えてるんだろう?フランス人はフランス訛りの英語、ドイツ人はドイツ訛りの英語だが、両者が簡単に共通言語でコミュニケーションを取っているのはご都合主義。

 やたらナイフを振り回すアンジェリカ・ヒューストンの溌剌は楽しかった。