映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「ベイウォーク」監督・粂田剛 at 名古屋シネマテーク

atbaywalk.com

 同じ監督による「なれのはて」(2021) の続編、というより元々は一本で5時間の作品だったのを分割制作したとのこと。

 この映画を観る前夜に粂田監督と呑みながら色々話しを聞いた。前作ではフィリピンパブ嬢に絡む情欲の果てに堕ちて行った男達が多かったが、本作はズバリ「一攫千金」と「老後の楽園」という夢に敗れた男達である。

 一攫千金の夢敗れベイウオークと呼ばれる遊歩道で夜が明けるのを待つしか無い赤塚氏。マニラに移住してマンション買い、カツカツながら何とか老後を楽しく過ごそうとする関谷氏。「なれのはて」と同じく50代後半から60代前半、という事は私と同世代なのでバブル期を経ている。

 粂田監督は敢えてバブル期経験者というカテゴリーでは括らないが、私には彼らの「かつての栄光の時代」が透けて見えた。言葉の端々に未来への夢というより過去の幻影に囚われている事が窺える。赤塚氏がすがる様に連む長谷川という男への言葉はそうだ。悪様に罵りながら長谷川氏本人には敬語でしか話さない。一縷の期待があるからだ。「金さえ返してくれれば」「金持ってきてくれる人がいる」。金があった時代を経験した人が抱く幻想。いつか空から札束が降って来る、それまでの辛抱。

 また関谷氏も安易にレンタ・トライシクルの事業に手を出す。濡れ手で粟への幻想。

フィリピンでのトライシクルの乗り方 | フィリピンプライマー

 ネタバレ失敬だが、前作同様本作でも登場する日本人は7年に亘る取材中全員死ぬ。

劇中彼らはやたらと煙草を吸うが、粂田監督によると赤塚氏は酒も酷かったそうだ。

 彼らの行動範囲は、昨年「フィリピンパブ嬢の社会学」のロケで宿泊していたホテルの周りと重なるので既視感は勿論、郷愁とは違う、説明し難いまた行ってみたいなという感覚に囚われた。恐るべし魔境マニラ。

 これは煩悩とバブルの果てのニッポンおっさん論である。