映画和日乗

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「チャイナタウン」監督ロマン・ポランスキー at OSシネマズハーバーランド神戸

午前十時の映画祭14 デジタルで甦る永遠の名作

 

 封切りで観たい映画が見当たらない。邦画はどれもこれも貧乏臭く華がない。若手は半径10メートルの世界しか描けない。

洋画の新作が極端に少ない。マーベルは興味がない。ガラパゴス民度イーストウッドの最新作の劇場公開が見送られるなんて、文化果つる国の面目躍如だ。

 

 そこで午前10時、となった。

恥ずかしながら告白すればこの「チャイナタウン」を劇場で観ていなかった。観終わった今、完全に未見だったに等しいと不明を恥じた。

4Kリマスター版は頗る優美で、暗部が多いのにくっきりと人物の輪郭が見える。

何より音の演出がモニター鑑賞とは比較にならない。銃声はいちいちビクッとする迫力だ。

冒頭、哀れなバート・ヤングにニコルソンが呑ませる酒がオールド・クロウなのもはっきり分かる。

 ロバート・タウンの脚本は観る者を一瞬たりとも安心させない。

そして時に手持ちキャメラでグラグラと不安を煽り、何か分からないものを池の底で光らせる不穏。

枯れた川岸を横切る少年と馬の詩情、フェイ・ダナウェイの全身から漂う妖気。

ラスト、撃たれても死なないジョン・ヒューストンの醜悪と少女の最悪な未来の予感。

ボランスキー、天才。恐怖の演出は群雄割拠だが不穏の演出はこの人の右に出る者はいない。

老人ホームの執事にニコルソンは問う「ユダヤ人は入所できないですよね?」「はい」。本作の時代は1937年という設定。恐らくその数年後に両親を強制収容所で亡くしたポランスキーの、針を刺すかのような一撃。

 

 ハーバーランド神戸の10番スクリーンは小さなキャパだが、善男善女でそこそこの入り。佳き映画に心満たされる。