映画『ちょっと思い出しただけ』オフィシャルサイト 2022年2/11公開
ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」('91)が下敷きになっているようで、本編にも池松壮亮演じる元ダンサー(それは物語を追って行くうちに分かる)で照明技師が自室でこれを観ていたりする。
新宿と横浜あたりのマスクをした人々の日常から始まり、カレンダーの日付が映し出される度に時間が過去に戻って行き、マスクのない世界へと遡る。
マスクがない世界が最早遠い過去になっていてえらいこっちゃと溜め息が出る思いだ。それはひと組のカップルの過ごした濃密だが壊れやすい日々でもある。
池松と、タクシー運転手の伊藤沙莉の会話劇。
日常に寄り添った話し言葉が秀逸、何より二人の呼吸と間合い。圧倒的伊藤沙莉の力量。藤山直美の後継者はこの人だと思う。
映画全体に品の良い「倹しさ」が感じられ、体操やダンスの反復とそのズレによる二人がいることと、一人でいることの佇まいの違いの表現は古典的ながら見事だ。
音楽も品が良い。
遠いあの日は私にもあって。しみじみと沁みるエンディング。美しい横浜のロケーションを捉えたキャメラも秀逸。
もう一度観たい、と久しぶりに思った日本映画。松井大悟という才能を観ていなかった不見識を恥じて月刊シナリオの本作の掲載号を買った。
傑作、お薦め。