映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「コレクティブ 国家の嘘」監督アレクサンダー・ナナウ at パルシネマしんこうえん

www.collectivemovie.com

transformer.co.jp

 2015年ルーマニアの首都ブカレストライヴハウス火災に端を発する不正医療事件を追うドキュメンタリー。

 ライヴハウスの中にいた人が撮った火災発生の映像が衝撃的だが、問題は被災者の治療にあった。

 ルーマニアの医療制度について検索したらこんな記事↓

www.mhlw.go.jp  これ2015年の7月だから事件前。この厚生大臣は映画には登場していなかったがこの時すでにルーマニアの医療制度は崩壊していたということだ。

 病院で使う消毒液を納入業者が10倍に薄めていたという事実を掴んだスポーツ新聞のジャーナリストの告発行動をキャメラは追う。新聞記者が公権力の汚職や疑惑を追う映画はこれまでも沢山あったが、本作はドキュメンタリーながら途中まではそれらの劇映画の構成と変わらず、人物の切り返しなどはリズミカルで、これは恐らく使われているフッテージの何十倍の映像が存在していたことを想像するに難くない。

 が、中盤、言い逃れに終始していた保健省大臣が若い外部採用の人物に替わり、この新大臣が本作の製作者に対してオープンな姿勢を見せ、大臣室にまでキャメラは入って行くあたりで展開が変わっていく。

 医療崩壊、という言葉はコロナ禍以降聞かない日はないぐらい使われているが、ことルーマニアに於いてはとうの昔から医療は汚職に塗れて崩壊していた事になる。

 縷々明らかにされる権力側の人間の汚い仕打ちに、怯まずに突進して行くジャーナリスト達(決して笑わないのが良い)のタフさに感心する。

 何とか改革しようと奮闘する新大臣。その新大臣をテレビを通じて非難するブカレスト市長。新大臣は外国かぶれと罵り、自国至上主義を謳う。あんなのいるいる我が国にも。

 本作を観ている間じゅう、我が国の権力への忖度に終始するジャーナリズムがこの先更に国家を堕落させて行く事を想わずにはいられない。

 ラストは苦い。この「結果」は例え腐敗していても国家に迎合する事こそ安心という反知性の勝利であり、与党圧勝な極東のどこかの島国との相似形でもある。

 ルーマニアEU加盟最貧国とのこと。こんな記事↓

www.afpbb.com

109分の尺だが、もっとあっても良いと思う。