映画的日乗

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「親愛なる君へ」監督・鄭有傑 at シネリーブル神戸

 

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www.imdb.com  昨年の台湾金馬賞2冠。

 広大な山脈から家屋の窓外に港が見える街へと重ねられるショット。

 そこが基隆である事はすぐに分かる。というのも私は何度もロケハンに行った事がある場所だからだ。

 林健一、というと日本人にもあるような名前だが監督・脚本の鄭有傑は日本語も堪能とのこと。その林健一(莫子儀)と「家族」の関係が当初は不可思議なのだが暫くすると読めて来る。

 健一の男性パートナー王立維(姚淳耀)は何らかの理由で亡くなっていて、彼の遺児・悠宇(白潤音)、その母親で糖尿病を患っている周秀玉(陳淑芳)の面倒を健一が見ている。ピアノ教師の健一は料理をし、秀玉の壊疽しかかった足の治療を手伝う。

 立維の弟は中国(後半の展開で上海と分かる)に住んでいて、旧正月に帰省しているところから半年後、秀玉が死んだことで物語は動き出す。

 時系列を組み替えることでミステリー仕立てになっており、悠宇と養子縁組をしていた健一の検察での証言、遡って遺産目的の健一への殺人の嫌疑、捜査と時間が戻って行く。

 健一は取り調べる検察官に、自信がゲイであることを告白した上で「もし(秀玉の)世話をしている人が女性だったら(疑われないですか)」と問う。

 差別のない社会、はお題目としては美しいが理性としてのそれと、人間の内的な抑えきれない差別の因子が齟齬を生むのはむしろ自然である。

 健一はそのことを解っている。彼がどんな時もひたすらに他人に優しいのはそのせいなのだと思う。

 殺人犯として健一を追う刑事(吳朋奉)は健一が遺して行く逃亡の形跡を簡単に見抜いて追い詰める。当初、健一のそうした詰めの甘さは脚本上のご都合主義なのかと思ったが、観終わって考えをあらためざるを得ないのは「いずれ捕まる、その前にしたい事がある」という後半の展開だからだ。

 まだ観ていない人の為に彼が逮捕される、という事までしか書かないことにしておく。真相はまた別のところにある。

 愛にのみ生きる人生の素晴らしさと苦難を彼の逮捕までの行動が示す。

 ラストは詩=言葉を大切にする台湾人の本領。巧い。

 実は私の「ママ、ごはんまだ?」に出演してくれた吳さんの遺作(2019年撮影)ということでこの映画をどうしても観たかった。

台湾の名優 吳朋奉(ウー・ポンフォン)を偲んで: アジアンパラダイス

ameblo.jp

 佳作、お勧め。