映画『ハムネット』オフィシャルサイト 2026.4.10公開
シェイクスピア劇の映画化は数あれど、シェイクスピア本人についての映画となると「恋におちたシェイクスピア」('98)を思い出す。内容は忘れてしまったが。
この映画と同時代(16世紀らしい)の、森の木漏れ日がオープニング。
鷹と戯れる、のちのシェイクスピア夫人となるアグネス(ジェシー・バックリー)は、薬草を煎じたり、森の自然と共生している。
やがてウィリアム(ポール・メスカル)と恋におち、結婚へ。
森での出産、どこかエキセントリックに予言を呟くアグネス。
自然をゆったり捉える画と染み入るような雨音や風のそよぎが、アグネスの情動の根源が森とその自然にあることに説得力を持たせる。
この物語が、冒頭から加速度的に物理的科学的な世界から離れて行きながら没入感があるのは、400年以上前の世界ではむしろそれがリアルな日常だったように見えてしまう演出の力にある。
そして人間の持つ根源的な生命力は今よりもずっと個々人に意識されていたように思える。
ウィリアムとアグネスの息子ハムネットの死(双子のきょうだいと入れ替わって死ぬ)とハムネットにしか見えない死後の世界も甘美なまでにオカルティックかつ詩的である。
ウィリアム・シェイクスピアは死者(息子)の再生という自然の摂理に反する世界を演劇に託す。クライマックスはその芝居「ハムレット」の初演。当初その目論見が理解できないアグネスが、客席(といっても立ち見)の最前列ににじりより、やがて目の当たりにする死者の再生と救済に手を伸ばし、握る瞬間の崇高さは息を呑む。
それは演劇が人の魂を救う瞬間であり、これが演劇の根源的な意義であるというモチーフを受けった気がした。
ジェシー・バックリーと息子ハムネット役のジェイコブ・ジュペ、恐るべき名演。
佳作、お勧め。
