映画和日乗

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「ハウス・オブ・グッチ」監督リドリー・スコット at TOHOシネマズ西宮OS

Universal Pictures UK

 誰もが知る名門ブランド・グッチ家に入り込んだ一匹の蛇がのたうち回って破壊して行く物語。

 フィレンツェ、ローマ、NYの豪邸という素晴らしきロケーションで展開される無能と成り上がり、下衆の末路。事実を下敷きにしている為、どんでん返しは仕掛けられない。さて才人にして最上の映画シェフ、リドリー・スコットはどう「料理」したか。

 1978年のグッチ家直系の御曹司マウリツィオ(アダム・ドライバー)の父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)の美術論で幕を開ける。ジェレミー・アイアンズが極端なまでの貴族意識を発散させるカブキ様に戸惑っていると、いきなり日本語で現れるその実弟アルド(アル・パチーノ)。美意識の人を逆撫でするような商売優先。

 もともとオーヴァーアクト気味のアルが更に舞台調にほたえる。

 なるほど。これはコメディア・デラルテで行くのか。


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 案の定、アルドの息子パオロ(ジャレッド・レト)は藤山寛美演じるアホぼん並み。

 マウリツィオのウブぶりも不自然なほどだが、冒頭から全てを誇張して演出しているリドリーのおテテの巧さで見せ切って行く。マウリツィオをあっさりと手玉に取ったパトリツィア(レディ・ガガ)も負けじと目ん玉ぎょろつかせ、胸元を突き出す。

 時代は80年台に突入、ドナ・サマーのディスコソングは狂乱の時代に相応しく、「椿姫」で盛り上げる音楽センス。俗っぽさでパトリツィアの品性を炙り出す。

 巧い、惚れ惚れするほどリドリー・スコットは巧い。

後半、捨てられたパトリツィアがマウリツィオを待ち伏せる「ひょうきん族」の「さんちゃん寒い」コント並みの下世話もこの人の手にかかると凡庸に収まらない。

 パトリツィアが頼る占い師(サルマ・ハエック)のカブいた下衆っぶりも見事。余談だがサルマの実生活上の夫は現在のグッチのロイヤリティ保持会社のCEOとか。邪推になるがサルマのキャスティングが対グッチ家の「保険」なのかも。

 あっという間の159分、観る側の美意識も試される佳作。

 ところで、商売の為に日本語を覚えるんだと言うアルドはこうも付け加える。「日本人は勤勉で忠誠心が高い」と。

 リドリー・スコットハウスキーパーだった日本人女性の本がある。

 彼の作品群には度々黒澤明へのオマージュが見え隠れする。

   本作のサルマ・ハエック演じる占い師は「蜘蛛巣城」('57)の預言者からか 。

ブレード・ランナー」('82)でも日本語使ってたし、「ブラック・レイン」('89)もある。彼の日本(映画)趣味は相当のようだ。そう思ってみると、ジェレミー・アイアンズ三國連太郎に見え、レディ・ガガ山田五十鈴アル・パチーノ若山富三郎サルマ・ハエック桃井かおりを彷彿と‥‥させないかな?日本映画の俳優演技を思わせてならない。個人の感想です。

 ともあれ、お勧め。