映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「川っぺりムコリッタ」監督・荻上直子 at 角川シネマ有楽町

映画『川っぺりムコリッタ』|2022年9月16日(金)全国ロードショー

 川っぺりの土手に堆く積まれた廃棄された電話の数々が現れて、そうか、あれかと。

そういえばムロツヨシ演じる野菜を作っている男の発達障害をうかがわせる行動、そして真夏に黒いスーツを着て墓石をセールスする親子。

 黒澤明監督「どですかでん」('70)が下敷きになっていると推測できるキャラクター達。

 墓石親子の親の方を演じる吉岡秀隆黒澤明監督「八月の狂詩曲」('91)に出演していた。

 荻上監督版「どですかでん」とまでは言わないが、暑苦しいほど濃密な人間関係を示した黒澤明に比べると、北陸の田舎町の長屋に暮らす住人は淡白な労り合い具合である。

 墓石が売れた親子がすき焼きをやっているからと言って長屋中の人達が卵と茶碗を持って上がり込むなど、赤塚不二夫漫画のようでもある一方、松山ケンイチ扮するイカの加工工場に勤める男の「前科」はオレオレ詐欺の片棒担ぎを伺わせる現代性。

 墓石、無縁仏、いのちの電話

死を意識する無常と、とれたて野菜を食べ、その味と養分が生命力となる喜びの対比。

 荻上監督の、こういった相反が人生というものなのだろうという提示に思えた。イカの塩辛、あんなにてんこ盛りで食べたら体に悪いとは思ったが。