映画和日乗

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「モガディシュ 脱出までの14日間」監督リュ・スンワン at 角川シネマ有楽町

mogadishu-movie.com

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 ソマリア内戦というと直ぐに思い出すのがリドリー・スコットの「ブラックホーク・ダウン」(2001)だ。

 

 

モガディシュの戦闘 - Wikipedia

 キネマ旬報7月下旬号の監督インタビューによると、本作のロケ地モロッコで「ブラックホーク・ダウン」と同じロケ地に赴いたが跡形もなく、同国内の別地域でのロケとなったとのこと。

 1991年のソマリアで国連加盟の承認の為の多数派工作でしのぎを削っていた韓国と北朝鮮ソマリアの大統領に賄賂を届けようと疾走する韓国大使館のベンツ。このやたらとベンツをブッ飛ばすのは何か意味があるのかと思ったら、あるのだ。冒頭から見事に伏線を張っている。その韓国大使館の車を襲うゲリラ、彼らは北朝鮮大使館の差し金だった。

 韓国大使と国家安企部、北朝鮮大使と国家保衛部のそれぞれのコンビの鍔迫り合い。言い争っていたところに、恐ろしい数の暴徒が襲う。この暴徒の数が圧倒的で恐怖を煽る。安企部と保衛部はそれぞれ諜報員だから破壊活動や武術のプロでもある。

 北緯38度線による分断によって理念の全てに於いて半目し合う両国。そしてイタリアの信託統治から独立した汚職国家ソマリア政府と反政府軍

四つの価値感と各々の思想は、人間が生きる、生きたいという本能の前には「絵に描いた餅」に過ぎない事を見事に画と音で見せる。

 バーンと画面を覆い尽くす年月日の文字、叩きつける太鼓のリズム、1秒たりとも弛緩しないテンション。俳優の力強さ。圧倒的だ。

 手を携えて命からがら生き延びた彼等が国境を超えると再び分断国家の枠に戻される悲しさも、言葉ではなく画の力強さで描いていて見事。子供の目を覆う母の手の悲哀と残酷。

 この韓国映画の質的にも量的(制作費)にも一つの到達点と言っても良い完成度は、日本の映画関係者はもとより、政府関係者も観るべきだ。あと10年いや20年かかっても日本映画は韓国映画のこのレベルには追いつけない。断言する。

 本年度暫定ベスト。傑作、必見。