「お坊さまと鉄砲」公式サイト 12/13(金)ROADSHOW
ドルジ監督の前作「ブータン 山の教室」(2019)は未見。
どこかの国の政治家が「国民は飢えなければ革命は起きない」と言ったが、本作はブータンという王政国家で飢える事なく「私は幸福である」と自認する人々に選挙という「民主主義」を持ち込むことで起きる騒動を通じて、幸福の価値観を再検証させられてしまうという類稀なる映画体験を与えてくれる。
ヴェンダースの「PERFECT DAYS」(2023)で描かれた「慎ましく生きる事の幸福」は失われた悦びの擬似体験でもあったが、この「お坊さまと鉄砲」は失われた倫理を覚醒させる。
ブータンの歴史を検索すると、本作で重要な役割を果たす「南北戦争当時の銃」が戦いに使われていたのは英国との戦争だったようだ。
四方を中国(チベット)とインド(のちにインドとバングラディシュ)に囲まれたブータンはそれはそれは長い戦争の歴史を抱えていて、チベット仏教の教えがその後の平和に少なからず寄与している事は本作を観ていて心に沁みるようによく分かる。
よく出来た落語の噺のような脚本で、西欧が血で血を洗う争いで手に入れた民主主義の金科玉条に疑義を申し立てる展開は、私自身未だ頭の整理がつかないほどの衝撃である。
幸福を得るための争いはとは何か。民主的な選挙と言いながら畢竟分断を生む。本作では模擬選挙を丁寧に見せることでそれをあぶり出す。
争いの後はノーサイド、は単なる建前でそれはラクビーだけの話しだ。
選挙のせいで学校で虐められる少女が登場する。彼女にとって必要だったはずの消しゴムを巡るやりとりは示唆に富む。そして彼女の行動に、豊かさの本質を突きつけられる。
観終わってヒョーゴ県知事選挙のことが頭をよぎる。意識的無意識的に拘らず誰も幸せにしない選挙に手を染めてしまう事もあるのだ。
みんなで観よう「お坊さまと鉄砲」。
正月二日、お客入っている。傑作、やられた、お勧め。