布で包まれた死体と思しき物体を引き摺る男、床下に沈めそれに火を放つ。一気に物語に引き込み、観客の意識を集中させる巧なイントロダクションに胸躍る。そして降り続く夜の雨、クラシックなフィルム・ノワールの匂いがむせ返るほどだ。
男、スタントン(ブラッドリー・クーパー)は見世物小屋の大将(ウィリアム・デフォー)に取り入り、この巡回遊園地の一団と共に生活を始める。おどろおどろしい見世物、40年以上前の私の子供の頃にもあった。日本の場合は神社の縁日が定番だった。
いつの時代なのか暫くは分からないが、見世物小屋の大将が「チャップリンに似た男がポーランドを攻めやがった」と言う。1939年ということか。
世界大戦が始まったが、あるきっかけからスタントンは読心術(の芸)を身につけ、同じ一団にいた女モリー(ルーニー・マーラ)と恋仲になり一団を抜ける。
二年後太平洋戦争が勃発した頃、二人は読心術芸でひと儲けしていた。彼等のホテルのショーに現れた謎の女(ケイト・ブランシェット)がスタントンに面会を申し込んで来る事から運命の歯車が回り始める。
この辺りからモーセの十戒を思い起こした。人心を操り思いのままに操作するのは神の領域。そこに踏み込んでしまった男の末路は当然神罰が下り、ある程度予測がついた。
またこれは品性を巡る物語でもある。品格を充たそうとしてもどうしても付き纏う品性の卑しさ。成り上がりの階段を踏み外して元の木阿弥。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、あの程度の幽霊トリックはクライマックスとしては如何かな、と。それこそ「まんまと騙す」ショーとして興醒めである。
とまれ、脚本は見事、大人の寓話として楽しめる。ケイト・ブランシェットの化けっぷりは圧倒的。