映画和日乗

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「ノートルダム 炎の大聖堂」監督ジャン=ジャック・アノー at 109シネマズHAT神戸

映画『ノートルダム 炎の大聖堂』オフィシャルサイト 2023年4/7公開

 かの大火災は2019年、それを時系列に忠実に映画化。

 冒頭に「ウソのようなホントの話し」とクレジット。

皮肉めいたこの言葉はいかにもフランスらしい。 

各国語のガイドによるノートルダム寺院巡りでその歴史をおさらい、カットバックで挟まる補修工事職人の煙草の吸い殻、漏電を思わせる火花‥‥導入はJ.J.アノー監督流石の巧さ。どうやら火災の原因は特定されていないらしい。

 ウソのような、はいくつもの偶然。警備室の職員はなんとこの日が初出だった、作業場禁煙が全く守られていない補修工事、煙が出ているのに建物が高いために地上にいる人から見えていない、警報機は「誤作動」で片付けられる。

 ようやく火災発生が周知されるも文化財のありかを知る学芸員は離れた場所にいた、消防隊が出動しても大渋滞で一向に現場に辿りつかない。

 ここら辺りから実際の映像が巧みに挟み込まれる。オープンセットでの消化活動シーンも迫真なので繋がりに不自然さがない。i phoneの映像も狭い場所などでの撮影で活用されている。

極め付けはマクロン大統領の登場。現場視察の実際の映像はまだしも、消防隊員に決死作戦の司令を出すシーン。そっくりさんか、いや違う本人だ。という事は周りの消防隊員も本物ということになる。それにしてもマクロン氏、疎まれているな。

 ここまでなら「壮大な再現フィルム」でしかないがそこはJ.J.アノー、腕と格が違う。

この映画は「鍵」についての映画なのだ。

鍵がかかっていて前に進めない消防隊員、開いたかと思うとまたその先にある鍵。開けて入った筈のドアが風圧で閉じてしまいまた鍵がかかる。

神に捧げる宝物を守る為の鍵、それを救い出す為の鍵。夥しい数の鍵が描かれる。そして「荊の冠」の箱を開ける鍵を持つ唯一の学芸員を襲う受難の数々。

 

forbesjapan.com

 カッコいい消防隊員を描くだけの映画ではない。文化財保護にかけては人後に落ちない筈のフランスが防災についてはタダ漏れであることを皮肉を込めて告発している一方、鍵を巡る中世への時間旅行も体感出来る贅沢な構成。

 ドナルド・トランプ(こっちは間違いなくそっくりさんだろう)の右斜め後ろショットには笑った。やっぱりエスプリだね。

 佳作、お勧め。

www.timeout.jp