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スペイン内戦時代の虐殺事件を洗い出す学者と、被害者のひ孫だというキャメラマン、ジャニス(ペネロペ・クルス)が程なくデキてしまうところから物語は始まる。
歴史記憶法という言葉が出て来て、検索してみてよく分かった。近年のスペインの国情では極右とされる政党がこれに反発しているとキネマ旬報2022年11月下旬号の特集記事に書かれている。どこの国も似たようなものなのだ。
さて、アルモダバル監督は極彩色ではあっても優れたデザイン感覚でストーリーを彩る。我が国にもただひたすら下品な極彩色で人気のカントクさんもいるが、格と品性が違う。
素敵な壁の色の産科院でジャニスはアナ(ミレナ・スミット)というまだ十代だという妊婦と同日に出産する。やがて生まれた赤ちゃんが取り違えられた事が発覚する。
新生児取り違え、というと是枝裕和監督「そして父になる」(2013)があったが、本作ではちょっとひねりが効いていて、片方の新生児は突然死してしまう事からドラマが生まれる。産科院側の責任問題が描写としてすっぽり抜けているが、アルモドバルの興味はそこには無いようだ。
スペイン現代史と現況のスペインの政治状況をある家族の血縁、血族の視点から描く大胆な構成と、繰り返すが優れた色彩と建築デザイン感覚で観ていて飽きない。そして何より魅力爆発のペネロペ・クルス。実年齢より十歳若い役だが、溜息が出るほどいい女。
隅々までデザイン化された映像設計が、ラストに至って不穏なリアリズムに転じる凄み。更にそこから時空を超えて観るものの想像力を喚起する。
巨匠の腕前に敬服する。佳作、お勧め。