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「秘密の森の、その向こう」監督セリーヌ・シアマ at シネリーブル神戸

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 素晴らしい傑作「燃ゆる女の肖像」(2019)の監督セリーヌ・シアマ最新作。

 原題はPetite Maman、英語ではLittle Mama。

    冒頭、年老いた女性のアップ、クロスワードパズルに興じていると思いきや、パズルを解いているのは老女の手元にいる少女の方。やがて少女は老女に「さよなら」と告げ隣の部屋へ。そこにも年老いた女性。また「さよなら」と呟く少女。更に隣の部屋でも「さよなら」。どうやら介護施設のようだ。少女はもう一つ隣の部屋へ。若い女性の後ろ姿。彼女はベッドを片付けている。

 少女の祖母が亡くなったのだ。若い女性は少女の母親だろう。反復とズレ。もうここで映画的純度の高さに唸ってしまう。

 少女は両親に連れられて祖母が暮らしていた家を訪れる。しばらくここに滞在するようだ。紅葉した美しい自然の映える家。

 一人っ子の少女はひとり遊びに慣れていて、近所の森へと分け入って行く。家では何故か母親が夫と子を残して実家をあとにする。

 父と二人っきりの暮らしになった少女が森で出会ったのは、母と同じ名の、自分と瓜二つの少女。歳も同じ八歳。

 観ている者は森という太古の昔から妖気や殺気を孕む舞台装置がもたらす不思議な力にするっと引き込まれてしまい、出られなくなってしまう。

 ツイになった少女の動き、表情の愛らしさに魅せられ、少女の想念としての母親の過去が、あたかも冒頭のクロスワードパズルのように断片的に散りばめられるスリル。

 シルバーの取っ手のついた杖、「祖母の匂いが好き」という言葉。

 青いタイル、青いベッドカバー。家の中のシーンはセットを組んでの撮影だという。キャメラワークからの逆算で建て込まれているインテリアは、ワンシーンワンカットでもずっと観ていられる。

 時間など存在しない、母と娘が同じ歳で同じ空間に暮らしている想念の世界。この少女の美しさと愛らしさの溢れた閉じた時空間も、少女自らによって解き放たれる時が来る。一切劇伴音楽を使っていなかったのに突如鳴り響くエレクトリックサウンド、疾走するキャメラが追う二人の少女が漕ぐボート、少女の想念の象徴のような三角錐の建物。鳥肌が立つほど心揺さぶられた。

 二人の少女、双子なのは自明だがよくぞ見つけた。そしてよくぞその八歳の瞬間瞬間の輝きを引き出した、恐るべしセリーヌ・シアマ。

一切の無駄のない73分。傑作。

 

 


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