レンタル・ファミリー(大ヒット上映中)|映画|サーチライト・ピクチャーズ公式
Hikari監督は「37セカンズ」(2019)が未見、「TOKYO VICE」(2022)で初めて観て配信ドラマ、しかもヤクザものでもちゃんと個性を発揮していた記憶がある。
さて、レンタル・ファミリー業は岩井俊二監督の「リップバンウィンクルの花嫁」(2016)のエピソードとして描かれていたなと思い出す。
今回はそこに米国人フィリップ(ブレンダン・フレイザー)がスカウトされて就業する。いわゆる「外タレ」プロダクションの俳優しいう役柄。
不思議の国ニッポンを描いていた「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)の来日俳優ビル・マーレイがもしもそのまま東京に住み着いていたら、という見方も出来る。
フィリップは一人団地に住み、コンビニ飯暮らし。主な話し相手はオキニのデリヘル嬢(安藤玉恵)。
デリヘルはセックスをしないことが建前で、風俗業として国家(警察)が管理する。
擬似セックスなら売春に当たらず、国家がお墨付きを与えるというシステムはこの国独自のものである。フィリップもまた既にしてパートナーをレンタルしていたという皮肉。
観念的に見れば、このデリヘル業が本作で描かれる日本社会と日本人の人間関係全てに当て嵌まるように見える。
ある女性は家族同士でぶつかり合うことを避ける為に、家族(偽の夫)を雇うことで建前としての結婚を成立させて、本心、いや本性としての同性結婚を隠しカナダへと旅立つ。
また別のシングルマザーは偽の夫を雇うことで偽の家族円満を装い、実子のお受験の面接を切り抜ける。
偽の家族でも「成立している風」に見えることが大事で本質は問わない。
本質を避け、形式を重んじるデリヘル国家ニッポン。
Hikari監督はしかしそういう観念性を適度に押し留め、彼らの心に個人の尊厳に帰依する時が訪れるというポジティブな描き方をする。
フィリップは家族に内緒で認知症の俳優(柄本明)の今生の願いを叶える。
また彼と同僚のアイコ(山本真理、好演)は何でも金の為と割り切って来たが、ある時顔を傷つけられて我慢がきかなくなり、不倫相手の代行の現場でキレる。
この二人をどやしつけ解雇(アイコは自分から辞める)した上司(平岳大)の、老俳優の葬式での言葉が良い。
言い争ったフィリップが先に謝ると、上司は"I needed to hear (itだったか、it from youだったか)"と応える。
「私もそれを知る必要があった」である。それは、管理(つまりは経済の論理)と個人の尊厳を天秤にかけた時、優先するべきは後者であるということ。
満開の桜が揺れる爽やかなエンディングに「それを知る必要があった」と気付いた日本人がいたという希望が感じられる。
ここからは私の勝手な想像なので外れていたら製作者の方ごめんなさい。
老俳優(柄本明)が過去に出演した「広島の侍」という映画のことを、家政婦がフィリップに「決して尋ねてはダメ」と釘を刺すが、それが何故なのかが伏線として回収されずじまいであった。
その老俳優は後半、フィリップと共に家を抜け出して天草に向かうが、あれは本当は広島か長崎じゃなかったのか。そして「病気になって死んだ彼女」は被爆者ではなかったのか。米国資本の映画でそこはタブーとなり、ちゃんと描けなかったのではないかと。
繰り返すがあくまで私の想像です。
ともあれオスカー俳優を存分に活かして天晴れ、佳作、お勧め。

