映画和日乗

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映画「道草キッチン」2025年11月公開  

「決断するとき」監督ティム・ミーランツ at kino cinema神戸国際

https://www.lionsgate.com/movies/small-things-like-these

 

映画『決断するとき』オフィシャルサイト

 

   「オッペンハイマー」(2023」で知名度が上がったキリアン・マーフィがクレア・キーガン著の原作に惚れ込んでの映画化となったとのこと。

彼が「オッペンハイマー」で共演したマット・デイモンがプロデューサーとしてクレジットされている。EPには同じく「オッペンハイマー」で共演していたケイシー・アフレックの兄、ベン・アフレックの名前もある。

原題は原作通りの"Small Things Like There"「ほんのささやかなこと」。

アイルランドに実在した修道院の人権侵害を描いていて、観ている間じゅうタイトルが思い出せなかったが、これ観たことあるな、と既視感が脳内に充満していた。

観終わって検索したら「マグダレンの祈り」(2002)と同じ修道院だった。そしてもう一本、時代背景も場所も違う修道院だが「夜明けの祈り」(2017)と同じような話しであった。

 

 

mitts.hatenadiary.jp

 が、本作が上記二本と決定的に違うのは、修道院内部での出来事を直接的には描かず、木炭を配達に来るビル(キリアン・マーフィ)の一人称的な視点で描かれている事だ。

木炭の配達中に、ビル自身も子沢山で決して裕福ではないのに、トボトボと薪を集めている貧しい少年に小遣いをあげたりする優しい男である。

ある日彼は配達先の修道院の前で泣き叫ぶ女性が母親の手によって無理やり修道院に引き摺り込まれる様子を目撃してしまう。

繰り返し反復される、走るトラックの荷台から運転席の後部へ向かって捉えられるカットがビルの何の変哲もない日常を模っていたが、次第に彼の心身は変化して行く。

時折挟まれるビルの少年時代の回想は彼の心身の変化とシンクロして行く。

祖母と、母と「おじさん」と暮らしているように見えたが、この祖母を「ウィルソンさん」と名前で呼ぶビル少年。「おじさん」と母のただならぬ関係も示される。

ウィルソン(ミシェル・フェアリー)はビル少年にクリスマスプレゼントの希望を訊く。

が、クリスマス当日、ビルが希望したジグソーパズルではなく湯たんぽが手渡される。

ここでこの両者の間に複雑な何かがあることが示唆され、やがて突然の母の死が訪れる。

ティム・ミーランツ監督はベルギー出身、実直な演出ぶりが好もしく、原作の文学性をきちんと掬っている印象。

 

 本作はアイルランドのカソリック文化の宿痾を捉えているが、それは即ち我が国でも珍しくない「ムラの掟」と「村八分への恐れ」でもある事が分かる。

修道院の醜悪な人権侵害を確信するビルに対して「行動=女性の救出」を諌めるのはビルの妻であり、行きつけのパブの女主人であり、と皆女性であるという背反は差別の本質を突く。

 ネタバレは慎むが邦題にある「決断」は、ビル少年の回想で示される愛情への飢餓が最後に至ってポジティブに機能していて爽やかですらあった。

慎み深い佳作、お勧め。