映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「エル ELLE」監督ポール・ヴァーホーヴェン at 神戸国際松竹

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幼少期に父親が起こした猟奇殺人事件以来、傷つくことをやめてしまったかのような精神状態の女をイザベル・ユペールが演じる。口は悪いが他者に与えることは厭わない。だらしのない息子、欲望のまま生きる母親の要求に応え、ただ性欲を満たしたいだけの同僚の夫にもハイハイと電話一本でお供する。そして警察というものを絶対に信じず、勤務するゲームソフト会社の商品に暴力性が足りないと凄む。彼女の周りの人物は、一人の敬虔なカソリック信者の女性を除いて皆性欲過多かフェチ、そしてアホ。このような救えない人々もまた現実的には必ずいる筈で、監督ヴァーホーヴェンは旧来のコード的な倫理観を切り裂く。それはこの人のいつもの事ではあるが今回はロボットや戦争やストリッパーの世界ではなく日常性の中で描かれる点が新味。

ヴァーホーヴェン監督、御年79歳か。観る側が無意識に縛られている倫理観に弓引くパワーには脱帽。お勧め。良い子は観ちゃダメ。

「三度目の殺人」監督・是枝裕和 at 109シネマズHAT神戸

gaga.ne.jp観ている途中でジョン・フランケンハイマー監督「終身犯」('62)を思い出した。テレビで一度観ただけの映画で画を殆ど覚えていなかったが、この映画の後半ではっきりと重なるシーンがあることを認識した。キネマ旬報の特集号を読んでも誰も指摘していないが。

弁護士(福山雅治)のキャラクターは映画的には特異だが、実際にはこんな空疎な輩は存在しそうだ。そのあたりは是枝監督の描写力が光る。万引き犯の実の娘を咎めるでもなくなあなあで済まし、放ったらかしにしていた自分が悪いとさえ言って娘に謝る。裁判のシュミレーションに正義を持ち込もうとはせず、ひたすらに減刑へのスキームに拘る。一方前科があって、二度目の犯行として囚われている男(役所広司)はくるくると証言を変えるもサイコなイメージはなく、誠実な凡人に見える。映画は徐々にこの男の証言によって殺人事件の真相が見えにくくなって行く。黒澤明監督「羅生門」('50、真相は藪の中)、「悪い奴ほどよく眠る」('60、イノセントな足の悪い女)「天国と地獄」('63、ガラス越しの犯人と被害者の対峙)と引用もミルフィーユ状に重ねられているように思う。

さて、では誰が犯人なのか。大の大人を鈍器で殴って殺し、ガソリンをかけて火を放つ。あの子が?いやあの女が?そうするとやはり‥‥。私達はこの映画のどこを観ていたのかを試されることになるが、四叉路に立ちすくむ弁護士という裁判判決後の描写に戸惑いに近い食い足りなさを覚える。