映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「お父さんはお人好し」監督・斎藤寅次郎 at 神戸アートビレッジセンター

新春ニッポンの喜劇映画セレクションの一本。

1955年大映京都作品。

 昨夜放送されたNHKファミリーヒストリー」で堺正章が父堺駿二がほとんど鎌倉の自宅に帰って来ず、京都の撮影所で仕事をしていたと語っていたが、時代劇のみならずこうした現代劇にもコメディリリーフとして登場していたことが如実に分かる。

 大阪の天下茶屋商店街が舞台だがこれはオープンセットだろう、今では考えられない。話は13人の子沢山夫婦のドタバタ、他愛は無いが花菱アチャコ浪花千栄子の絶妙で笑わせる。堺駿二はちょっとエキセントリックな役どころ、13人兄妹の中の一人に中村玉緒(この時16歳)、何故か唐突にマンボを踊り歌う。もともとラジオドラマだったという「お父さんはお人好し」、時代からすると映画というよりバラエティショーの意味合いが強いようで、エンディングにトニー谷がこれまた唐突に雪崩れ込む(そして何故かノンクレジット)。相手が益田喜頓、しょうもないコントだがこれも時代だ。時代と言えば復員兵の情報番組、名前を呼ばれた人は復員してくるというもの。戦後10年、シベリアや中国で抑留されていた辛酸は微塵も語られはしないが、それはまた別の話しといったところだろうか。

「動くな、死ね、甦れ!」監督ヴァーレリー・カネフスキー at 元町映画館

www.imdb.com1989年ソ連製作、ということはソ連崩壊前夜。そして描かれている時代は第二次世界大戦直後、舞台はスーチャンという町。検索してみると今はその地名はなく、パルチザンスクという炭鉱町だそうだ。シベリア鉄道の支線が通っているとのことだが、こんな資料を見つけた↓

www.mhlw.go.jp↑この地図のナホトカの北東にパルチザンスク(旧スーチャン)とある。映画の中で不意に聞こえてくるよさこい節と共に「ニヤニヤ笑うサムライ」と蔑まれる旧日本兵捕虜が出てくる。スーチャンにシベリア抑留者がいる描写は厚生労働省のこのサイトを裏付けている。

 歌、激しく罵り合う大声、疾走する少年。はたき合い、殴り合ってはぶっ飛ぶ子供達。そして日本民謡。映画的純度は極めて高く、我々はキャメラの指し示す方向に青息吐息でついて行かねばならない。予測不能の展開、質の悪いアフレコと思いきや、登場人物ではない人の声が混じる。確信犯でそうしていることに途中で気がつく。豚は飼うが、たくさん生まれてしまった子猫は湯に沈めて殺す。一杯の茶を売ることで糊口を凌ぎ、見るからに酷寒で不衛生な暮らしを生き抜く人々。戦争の勝利の恩恵から外され、収容所送りになった知識層の発狂、あるいは傷痍軍人の物乞い。それらを見つめる眼差しの強さ、それは主人公の少年に自身を重ね合わせるカネフスキー監督の記憶でもある。聡い少女はいつも突然現れては少年を救う。強盗団から逃げる二人、「フレンチ・コネクション」('71)の鉄橋カーチェイス並のスリルだ。凄いものを見てしまった、続編二作、是非観たい。