映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「ボーダー 二つの世界」監督アリ・アッバシ at ヒューマントラストシネマ渋谷

www.bordermovie.us アリ・アッバシ監督はイラン出身でデンマーク在住、もとは建築家だそうで、IMDbによると長編は二作目。本作はスウェーデンデンマークの合作。

 冒頭から何度も繰り返し出て来る暗い森。湿地、豪雨。先に見た「ドリーミング村上春樹」もデンマークの人で、暗い森が描かれていた。北欧の人にとって、森とは創造の原点、想像力の源なのかも知れない。

 猿から進化したとされる人類以外に、獣との中間的なもう一種の人類がいたとしたら。そしてそのもう一種の人類は人間と雌雄の役割が逆転していて男に出産能力があり、女に生殖能力があったとしたなら。これまでにない着眼にまず感心する。手塚治虫的発想だ。

 港の入国管理所に勤めるティーナ(エヴァ・メランデル、本当はこんお姿。役者として敬服する)は、嗅覚によって人間の行動心理が読み取れるという特殊な能力を持つ。容姿が醜いが何故か同棲しているヒモのような男がいる。父親は認知症気味だがティーナは面倒見が良い。幼い頃から虐められて生きて来たせいか、他人への気遣いに心を砕く。臨月の妊婦を病院に運ぶのも厭わない(これが後の展開の伏線になっている)。そんな彼女が出会ってしまう同類の人物、ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)。昆虫の幼虫を口に入れるのを咎めティーナに、お前も食べろと勧める。口に入れるティーナ。自分の存在の起源を辿る旅の始まりである。

 ティーナはその能力を買われて児童ポルノの撮影現場摘発に協力する。見事に犯人逮捕に至るも、この一件から物語は奇想天外な方向に進み、予測不能となる。

 一秒たりとも見落とせない緊迫した展開。そう来るか、のトリプルアクセル。ダーク・ファンタジーという手垢にまみれたジャンル入りを拒むかのような未知の体験。

 気持ち悪くて見ていられない人もいるだろうことは想像に難くないが(後半の展開で満席の劇場内は凍りついていた)、今年随一の面白さだった。佳作、お勧め。