映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「私は、ダニエル・ブレイク」監督ケン・ローチ at パルシネマしんこうえん

I, Daniel Blake - ホーム | Facebook

ダルデンヌ兄弟の映画で欧州の貧困を知る。そしてケン・ローチのこの昨年度カンヌ最高位作品で英国の貧困を知る。この映画とEU離脱は無縁ではない。低所得者層、いやここで描かれるシングルマザー家族は飢えてすらいる、そんな彼ら彼女らの求職は切実だ。移民に職を奪われ、他国に産業を奪われているという主張は、それが正しいかどうかはともかく、彼ら彼女らの心情に芽生えるのはこの映画を観ると理解出来る。勿論、主人公ダニエル(デイブ・ジョーンズ)はそんなことを一言も言わない。彼の怒りの矛先は黒澤明監督「生きる」('52)の比ではないくらいに酷い彼の国の官僚主義であり、国家の納税者への尊厳無視だ。ダルデンヌ兄弟には徹底したリアリズムだけではなくそこはかとない寓話性がある。が、ケン・ローチは非情だ。弱者に鞭打つ。そしてこの映画は怒っている。英国に、世界に対して。怒っている映画は久しぶりのような気がする。万引きのエピソード、巧い。

佳作、おすすめ。

 

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「彼女の人生は間違いじゃない」監督・廣木隆一 at シネリーブル神戸

東北大震災を扱った映画はドキュメンタリーを中心にそれこそ星の数ほどある。その中で廣木監督自身が執筆した小説として先行していたという本作のこのタイトルが潔い。

冒頭、早朝と思しき林道の、正面からのロングショット。車のヘッドライトに浮かび上がる、数十人の放射能防護服姿。場所も状況も瞬時に認知できる秀逸なショット。そこから、いくつかの、報道などで見知ったエピソードを纏った登場人物の日常が描かれる。被災地から東京に風俗嬢やアダルトビデオの出演者として働きに出る女性について、何かの記事で読んだ記憶があった。恐らく、廣木監督は一つ一つ、一人一人のバックボーンやエピソードを丁寧に取材したのであろう。

キャメラは人物のアクションに対して追いかけるように動き、捉える。待ち構えたところで人物が入って来て動き出すというフィクション性を排除する事で誠実にエピソードに向かい合う。また反対に出来事が動かない時点ではロングショットで定点観測のように構える。

彼女(瀧内久美)の、東京でも福島でもそこにいる居心地の悪さから解放されたような、長距離バスの中の表情を執拗に捉えるキャメラは語る。人生は間違いじゃない、がこのままで良い筈はない。勝手な解釈かもしれないが。

勝手な解釈ついでだが、ラストの震災直後のビデオ映像、廣木監督自身が回したものなのではないか?全篇のどこかにそれを挟むのではなく最後の最後に入れた、その強いこだわりを感じる。違っていたらごめんなさい。

 

 

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「カフェ・ソサエティ」監督ウディ・アレン at 宝塚シネ・ピピア

最近2本ほど敬遠していたウディ・アレン作品だが、撮影監督がビットリオ・ストラーロと知って(初コンビ)断然観たくなった。

主人公のルックスは冴えないが弁舌と如才なさに才を発揮するウディ・アレンそのままなボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)がデートに成功する相手ヴォニー(クリスティン・スチュワート)を初めてホテルの自室に連れ込む、いざと言う時に停電、部屋に夕闇の光が差し込む、鳥肌が立つほどの美しいデジタル撮影だ。お話は「ラ・ラ・ランド」('16)と似たようなちょっとしたすれ違い、選択の違いの結果、結ばれなかった二人のビタースィートラブなんだが、我らがアレン、場数が優っているだけに完成度はこちらの方に軍配、いや世代(と色恋の場数)で評価は違うだろうが。

この美しい撮影を堪能するには断然映画館、愛おしい佳作、お勧め。

 

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