映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「濡れた欲情 特出し21人」監督・神代辰巳 at シネマヴェーラ渋谷

www.nikkatsu.com 1974年日活。35㎜プリント状態は悪くない。

 大阪、台詞では心斎橋と言っているが吉祥寺駅前の標識が。神代辰巳だとそれらのことはご愛敬の範囲内となってしまう。6万円入りの財布を拾った男が北へ、南へと出会った女と共に旅をする。行き着く先は信州のストリップ小屋。女はストリッパーとしてそこに送り込まれる。浅草ロック座の社長が素人の棒読み台詞だが風情がリアルでこの人の登場が異質に突出する。芹明香の口癖のような「うるさいなー」が笑わせる。

 タコ部屋暮らし、そこには同様のヒモ達が蠢き、三角関係やらそれ以上やら。どこを切っても神代辰巳。徹底的に神代辰巳節。音楽の使い方が秀逸、全て既成曲、演歌歌謡曲からCMソング、民謡まで。♪ナカナカナカナカ〜と耳から離れない歌は、古来の民謡ではなく、俳優高橋明の創作とのこと。特に話しに絡むわけでもない路上芝居の外波山文明、ギラギラしてる。

 車道を走り、駅のプラットホームで地団駄踏む片桐夕子の溌剌!

 

 

「ボーダー 二つの世界」監督アリ・アッバシ at ヒューマントラストシネマ渋谷

www.bordermovie.us アリ・アッバシ監督はイラン出身でデンマーク在住、もとは建築家だそうで、IMDbによると長編は二作目。本作はスウェーデンデンマークの合作。

 冒頭から何度も繰り返し出て来る暗い森。湿地、豪雨。先に見た「ドリーミング村上春樹」もデンマークの人で、暗い森が描かれていた。北欧の人にとって、森とは創造の原点、想像力の源なのかも知れない。

 猿から進化したとされる人類以外に、獣との中間的なもう一種の人類がいたとしたら。そしてそのもう一種の人類は人間と雌雄の役割が逆転していて男に出産能力があり、女に生殖能力があったとしたなら。これまでにない着眼にまず感心する。手塚治虫的発想だ。

 港の入国管理所に勤めるティーナ(エヴァ・メランデル、本当はこんお姿。役者として敬服する)は、嗅覚によって人間の行動心理が読み取れるという特殊な能力を持つ。容姿が醜いが何故か同棲しているヒモのような男がいる。父親は認知症気味だがティーナは面倒見が良い。幼い頃から虐められて生きて来たせいか、他人への気遣いに心を砕く。臨月の妊婦を病院に運ぶのも厭わない(これが後の展開の伏線になっている)。そんな彼女が出会ってしまう同類の人物、ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)。昆虫の幼虫を口に入れるのを咎めティーナに、お前も食べろと勧める。口に入れるティーナ。自分の存在の起源を辿る旅の始まりである。

 ティーナはその能力を買われて児童ポルノの撮影現場摘発に協力する。見事に犯人逮捕に至るも、この一件から物語は奇想天外な方向に進み、予測不能となる。

 一秒たりとも見落とせない緊迫した展開。そう来るか、のトリプルアクセル。ダーク・ファンタジーという手垢にまみれたジャンル入りを拒むかのような未知の体験。

 気持ち悪くて見ていられない人もいるだろうことは想像に難くないが(後半の展開で満席の劇場内は凍りついていた)、今年随一の面白さだった。佳作、お勧め。

「いなくなれ、群青」監督・柳明菜 at アップリンク渋谷

映画「いなくなれ、群青」公式サイト

 ある孤島に不思議な高校があり、そこに連れて来られて通う生徒達は連れて来られた経緯の記憶がない。通信は遮断され、郵便は一方通行だ。北朝鮮に拉致された日本人のメタファーか、と思ったがそんな社会性が無いことは彼らの行動、言動ですぐに分かる。脱出を試みる生徒が「法律の範囲内で」などと言うが、そもそも軟禁状態が法律違反だと思うのだがそういった理屈は全て取っ払われているらしく、ひたすら閉じられた世界で現代社会とは無縁の事柄が続く。よって「知るか」と思った私などはついていけない。閉じられた世界とスクリーンのこちら側=社会を結びつけるのが映画監督の仕事でもある。ここには社会がない。大林宣彦監督は偉大だ、とそのことばかりを思ってひたすら映画が終わるのを待った。