待望の矢崎仁司監督最新作。
原作は江國香織、脚本は前作「ストロベリーショートケイクス」('06)に続いて狗飼恭子。
テディベアをつくっている瑠璃子(中谷美紀)とIT企業に勤める聡(大森南朋)の夫婦。波風の立たない日常だが、部屋に鍵を閉めてTVゲームに興じる聡に同居しながら携帯電話で連絡を取る瑠璃子。そのことに疑念はなく、むしろ肯定している。瑠璃子は自作のテディベアを求めて来た春夫(小林十市)とレンタルビデオ店で再会、そのまま肉体関係へと進む。一方、聡は同窓会で知り合った後輩(池脇千鶴)と深い関係に。それでも夫婦であり続けようとする2人は近郊の海に旅行に出かける。海では後輩が聡を待ち受け、また春夫も瑠璃子を追って来た…というお話し。
一見どうということのない昼メロ(死語か?)並みの設定だが、どっこい矢崎監督は地べたの日常から浮遊する世界を描き出す。従って「こんなのおかしい」と市井のリアリズムで見る向きには楽しめない。むしろ映画であるということを受け入れ、あちこちに仕掛けられた謎解きのヒントを拾い集めよう。夫婦の住むマンションから見える墓地、続いて聡と後輩が弁当を食べる公園の後ろも墓地、そして瑠璃子と春夫が初めてキスをするのも墓地。打ち上げられた心中死体、更に聡の乗った電車から見える葬式帰りで骨壺を抱く女性。犬の死、そしてまた骨壺。ジャガイモの毒、トリカブトの毒。死にまつわる情景が散りばめられ、この世の出来事の複雑さも不可解さもどうということはないのだというあの世からの眼差しのようでもある。ちなみに電車の駅の名前が、私の目視と記憶に間違いがなければ「天神橋駅」と読める。検索してみると戦前まで京王線にあった駅で現存はしないようだ。そこまで仕掛けているとすると、相当手の込んだ「あの世」ぶりだと言える。
予定調和なカタルシスも大ドンデンもない、この美しい幻覚のような映画は、それ故に心地良い。
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