映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「友罪」監督・瀬々敬久 at TOHOシネマズ西宮OS

gaga.ne.jp  平日の昼間、劇場半分くらいの客入り、重い話なのにまずまずの入り、先日の渋谷で観た「孤狼の血」より入っている感じがする。

 原作は未読。ポール・ハギス「クラッシュ」('05)を想起する構成、ただ随所で予想外の展開になるのが面白い。当初、周囲に謝罪ばかりしているタクシー運転手(佐藤浩市)がてっきり猟奇殺人の犯人の父親かと思って観ていたら、違ってたり。いくつかの、現在進行形の社会問題がリンクしていく展開もスリリング。神戸の、タンク山の事件がモデルであることも容易に想起されるが、瑛太があの彼を演じるに当たって試行錯誤したであろうが結果を見事に出している。

 友罪、とは勿論創作物のタイトルとしての造語だが、読み方は有罪、と同じだ。ここで過去の有罪を問われて生きている人々の語らない、語れない静けさに反して、瑛太の工場の同僚の暴力、かつての恋人を付け回して脅迫する男の暴力に観るものは有罪を感じる。が、この二人は映画の中では法的に無罪だ(現実には罪に問われる可能性大)。同じ空の下、見えざる罪と顕在する罪、どちらが大きい小さい、重い軽いではない。全て我々の隣人である。

 ラストの時空を超えた視線の交差は、映画だ。佳作、お勧め。

 

 

「ファントム・スレッド」監督ポール・トーマス・アンダーソン at シネリーブル神戸

www.facebook.com  戦後間も無くのロンドンで精魂込めてドレスを作るレイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)は亡き母を追慕し、有能なマネージャーである姉と暮らしている。日常のルーティンへの拘りは強迫観念に近い。ダンディズムは貫くが独身主義。そんな彼が出会ったレストランのウェイトレス、アルマ(ヴィッキー・クリープス)は彼の作るドレスの採寸モデルとして最適な体型であった。二人は常に行動を共にするようになるが泊まるホテルの部屋は別々。アルマは時にレイノルズの神経質に耐えられなくなるものの、レイノルズもまたアルマなしでは精神の安泰を保てないことに気がつく、というお話し。

 アルマがベルギーの王女に話しかけるシーンがある。不見識でそれがフランス語ではないことくらいしか聞き取れなかったが、アルマの出自を想像させる。レイノルズは結局アルマとの身分違いに拘り、破局へと向かうがアルマはある方法でそれを繫ぎ止めることになる。

 ロンドン・クラシックに挑んだカリフォルニアガイPTA、クラッシーかつ単純なラヴ・ストーリーに神経を張り巡らすもやっぱりどうしてもお里が知れてしまう、アルマの匙を噛む癖のように。ちょっと「日の名残り」('93)を想起したもののこういうのはやっぱりヴィスコンティとは言わないまでもダニエル・シュミットルイ・マルの方が本家なんだろうな。ほんもの感、極上感が違うような気がした。しかしこの野心的挑戦には拍手、二人の最初のキスのシーンは感動した。


The Remains Of The Day - Trailer

「犬ヶ島」監督ウェス・アンダーソン at シネリーブル神戸

www.facebook.com  完全なるウェス・アンダーソンの世界、とでも形容したいストップ・アニメーション映画。キネマ旬報誌でどなたかが書いていたが、アンダーソンの「俺のニッポン」だ。原日本人は文化を時系列で捉えがちだが、そうではない者が時系列に関係なく映画や絵画の記憶をごちゃ混ぜにして提示するとこんなにも鮮やかなのかということを思い知る。勿論、アンダーソン監督のデザインセンスあってこそだが。

 日本語の声優の音声はiphoneで録ってスタジオに送ったそうで、ハリウッド製の大仰なCGアニメとは違う手作り感が随所に生かされている。そして黒澤明への限りない愛。「七人の侍」のテーマはそのまま使われているし、劇伴は全体的に早坂文雄&佐藤勝の本歌取りだ。疫病の犬たちを島に隔離する、というのはシリア難民の現状へのメタファーと見るのは、考え過ぎか。

「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」監督ショーン・ベイカー at シネリーブル神戸

https://floridaproject.movie/

 フロリダ、ディズニーランドの街にあるモーテル「マジック・キャッスル」は実在するらしい。検索すると確認出来た。実際、この映画で描かれているような貧困層の巣窟になっているかどうかは定かではないが、悪趣味とも言えるパープルのペイントがシニカルだ。

 キャメラは常に子供達の視線か、鳥瞰的なアングルでモーテルの周りの世界を捉える。教養も品格もあったものではないヘイリー(ブリア・ヴィネイト)とその娘ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)を中心にした日々の生活をドキュメンタリータッチで追う。取り立てて起伏のあるストーリーは無い。無邪気に遊び回る子供達、可愛い悪戯から逸脱した危なっかしさと貧しい食生活が延々と描かれる。負のスパイラルから抜け出しようもなく、ヘイリーは偽ブランド香水の押し売りと売春に走り、やがて当局の知るところとなる。この親子だけに限らず、モーテルの住人達に諦観に満ちた優しさで接するのが管理人(ウィリアム・デフォー)。ウィリアム・デフォー、彼以外は殆ど俳優では無い素人である中、世界に溶け込んでいるのは見事。

 中盤、広大な空き家群に侵入し放火する子供達のシーンがあり、これがサブプライムローンの残骸であることはすぐに想起できる。リーマンショックによる金融恐慌とここに描かれている貧困層は無縁ではない。家が持てない人にも家を、がサブプライムローンの描いた理想郷で、実際にはそれが破綻し、彼らの今日があるのだ。しかしそんなことを批判するでもなく火事見物する人々の無邪気さに暗澹とする。

 是枝裕和監督「誰も知らない」('04)の影響がそこここに見受けられるが、このエンディングは意見の分かれるところだろう。リアリズムからシュールに飛ぶ一瞬には心動いたが。

「52Hzのラヴソング」監督・魏徳聖 at 元町映画館

 

 

 珍しい、初めて観る台湾映画のミュージカル。「ラ・ラ・ランド」('16)の影響だろうか。ただ、中国語のポップスでミュージカルというのを見慣れていないせいか映像の流れにノリ切れない。

 台湾のバレンタインデー情人節は日本からの輸入なのに現在の日本よりよっぽどの盛り上がりぶりだ。そのバレンタインデーに花やらチョコやらイベントやらと愛をデリバリーする人々の他愛ないお話。中盤、現役台北市長が登場して堂々の演技を披露するまでのテンポが悪い。

 後半、Lawry's 台北 が舞台になってびっくり。台湾有名芸能人のゲスト出演は楽しく、セットとロケの繋ぎ方も巧いだけに、惜しい。

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映画「孤狼の血」監督・白石和彌 at 渋谷TOEI

www.korou.jp   やや雨降り模様の白波ザブーン旧東映のカンパニークレジット。硬い朗読調のナレーション。観る者を一気に'70年代東映実録ヤクザ路線、とりわけ深作欣二&笠原和夫コンビ作品のそれを想起させる仕掛けに乗れたら後はフルスロットルで駆け抜けられる。 

 ベースは「県警対組織暴力」('75)に間違いないだろう。それにフリードキンの「L.A.大捜査線/狼たちの街」('85)が加味されているように見える。

 灰原隆裕撮影+川井稔照明の仕事が素晴らしい。日本映画で本当に久しぶりにちゃんとお金をかけて作り込まれたルックに心の底から感動した。松坂桃李に近づく女(阿部純子)の部屋のセット(美術:今村力)に往年の東映セントラル作品の匂いを嗅ぐ。あの透明の冷蔵庫の中のスイカとプリンはウォン・カーウェイ調だ。音も素晴らしい(録音:浦田和治)、とってつけたような銃声じゃない。人間の肉をえぐる音も。監督以下スタッフ全員の気合いの入った仕事に応える俳優陣、二言目には「モリタカ!」と呼ばれる遊びゴコロに殺気で切り返す江口洋介は演技賞もの。

 韓国映画犯罪都市」に対バン張れる初めての邦画、やれば出来る!と言うと「上から」との誹りを受けるかも知れないが、天晴!佳作、お勧め。

 

 

 

「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」監督クレイグ・ギレスビー at TOHOシネマズ新宿

www.instagram.com  トーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)の母親ラヴォナを演じたアリソン・ジャネイは本作でオスカー助演賞を獲得。いや見事なゲスっぷり、神経に障る性格のねじれまくりぶりはその賞に充分に値することに異論はない。アリソン・ジャーニーに限らず、登場人物の憑依したかのようななりきりっぷりがこの映画の最大の見所。そして全員見事なまでに頭が悪い。被害者のナンシー・ケリガン以外に同情すべき人物がいない。品性下劣、品格の欠如。ここに描かれる実際にあった事件を通して、米国の貧困層の市民がこの時代はもとより今日のトランプ政権の時代に至るまで脈々と、あるいは増幅しながら生き続けているように見えてならない。二度、強調するかのように当時のレーガン大統領のポスターがアップで映るのはその暗喩か。