映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「悲しき天使」監督・大森一樹 at シネマアートン下北沢

大森一樹監督、3年ぶりの新作。実は2年前に完成していたが、配給に手間取り、この度の封切りとなった。
父親を拳銃で撃ち殺した女(山本未来)は、同情に値する動機があったが、逃走。追う刑事(岸部一徳高岡早紀)は、彼女のかつての婚約者である関川(筒井道隆)が営む大分、別府の旅館にいづれ彼女が来るのではないかと張り込みを開始する…というお話し。
映画上映前に監督の舞台挨拶があり「日本映画の伝統的なつくり手がつくった、日本映画らしい作品に仕上がった」と語っていたが、何より緻密な脚本と、無駄の無いカッティング、サスペンスを盛り上げるスピーディな展開に、大森一樹の技術的集大成として「果たして映画とは何か」の答えのひとつを提示されたような逸品となった。日本映画らしい、というより'70年代アメリカ映画のポリスアクションものを彷彿とさせる。逃走する女の動きが読めた高岡早紀が逮捕を目論むと、岸部一徳が諭す。それでは無実の関川を巻き込んでしまう、と。高岡は「そこまで考えていませんでした」。更に岸部は言う、「30年も刑事をやっているといろいろ気を遣うもんだ」。嗚呼、大森監督のプロデビュー作「オレンジロード急行」('78)から28年、この台詞は彼自身の映画づくりへの目配り全てを集約した台詞と見て取った。
ラスト、犯人と刑事として初めて会ったふたりが、それでも女同士として心を通わせ抱擁する素晴らしいカットには胸が熱くなる。
筒井道隆渋く押さえて好演、映画的エッセンスがぎっしり詰まった傑作。もっと良い劇場で観たい、観てもらいたい、お勧め。
終映後、大森監督にご挨拶。感動は押し殺したが。

悲しき天使 [DVD]

悲しき天使 [DVD]