1953年大映作品。京都、祇園の芸者である木暮実千代と、家の事情で16歳にして舞妓になった若尾文子の日々。ストーリーは俗っぽく、どうということはない。同年に公開された「雨月物語」と翌年の「山椒大夫」の間につくられた正味90分を切る小品なのだが、溝口らしい残酷な運命展開はなく、どちらかというと甘い。同じ世界を描いた成瀬巳喜男の「流れる」('56)に比べると東西文化の違いこそあれ、こちらは欲得がちらつき、ギラついた感じだ。しかしそれこそが祇園の色町のリアリズムでもあり、お茶屋の女将浪花千栄子がその全てを体現している。女将が最初に登場する横に寝転がった姿のカットの、あの一瞬でこの女の素性を知らせる絶妙なる映画演出に唸る。撮影は名匠宮川一夫、ロケセットの祇園を豊かな奥行きで見つめる。どうということのない、そのどうということのなさの中に細やかに散りばめられている映画芸術の粋は至宝。
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/03/24
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