映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「墨攻」監督ジェイコブ・チャン at 109シネマズHAT神戸

紀元前370年の中国、群雄割拠の戦国時代。10万の大軍を誇る趙の国は、燕の国を獲ろうとしているが、その前に小国、梁の国に攻め入る。梁の国王は戦わずして白旗を揚げようとしているが、その息子は座して死を待つのではなく、墨の国の使者を招き入れ徹底抗戦を唱える。その使者、革離(アンディ・ラウ)は専守防衛論を説く知略家であった。直ぐさま攻め入って来た趙軍を、たった4,000の軍民共同軍で撃退せしめる。一旦は撤退する趙軍であったが、軍師である巷(アン・ソンギ)もまたプロの軍人のプライドを賭け、敵は梁国ではなく、革離という男だけであるとして再び攻勢をかける…というお話し。
前半、キャラクターのバックボーンが見えないまま、次から次へと波状攻撃の如く戦闘シーンが続き、その迫力に圧倒されつつも「何でこの人たちは戦ってるんだ?」と傍観せざるをえなかったが、やがて梁の国王のズルバカぶりが露呈するあたりから俄然悲劇性が高まり、憎悪感が蓄積される。「蜘蛛巣城」('57)「乱」('85)あたりの黒澤明作品のストーリーラインを想起させるが(両方ともシェイクスピア原作だ)、そもそもたった一人の知略家が民間人を率いて大軍と戦う、というのは「七人の侍」('54)の勘兵衛(志村喬)が一人で戦っているようなものである。と言う訳で黒澤明の影響が色濃いと思ったら原作は日本の漫画だとのこと。
後半に至って悲劇の先になんらのカタルシスは無く、大娯楽活劇として幕を降ろさない無常観は却って成功している。阪本善尚撮影監督、ド迫力のルックは流石。