映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「アキレスと亀」監督・北野武 at 109シネマズHAT神戸

現在の映画界に於いて「芸術は自分に従え」(by 小津安二郎)を実践している数少ない映画作家北野武最新作。
これまでの、どうしても顔をのぞかせる自身の出自(東京下町、浅草、足立区、漫才等々)を伺わせる造形を極力抑え、絵を描く事の好きな少年の成長記を描く。自身ビートたけしが中年期以降を演じるまでと、それ以前とでがらりとタッチを変えている。端的には子供時代から青年期までがペーソス、おじさんになってからがギャグ、なのだ。父の自殺、継母の自殺、美術学校の同級生の自殺、と「ソナチネ」('93)「HANA-BI」('97)以来の自殺指向も描かれるが、主人公はそれにはさほど心的外傷反応を見せず、ビートたけしになってからの排ガス自殺未遂も何ら悲壮感がない。もちろんそれらの演出は確信犯であろうが、ただその死に対する無機的反応の真意は謎で、娘の死に至っても「芸術」が優ってしまうのも果たしてどうか。彼の芸術が評価されないのは真の感情の発露がないからであるとすれば、それだけで2時間引っ張るのはちと辛い。が、それでも妻役の樋口可南子の自由闊達ぶりが楽しく、単なるギャグの連なりからは救っている。ラストは手に手を取ってのチャップリン「モダン・タイムス」('36)そのまんま、ここでようやく生きる希望が微かに伝わって来た。