映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「東南角部屋二階の女」監督・池田千尋 at 新文芸坐

16ミリスタンダードを35ミリにブローアップした、ざらついた、それでいて暖かみのあるルックという「懐かしいのに新鮮」な驚きから始まる。
古ぼけたアパート、家主友次郎(高橋昌也)の孫(西島秀俊)は会社勤めを辞めてこのアパートの不動産を処分しようとしている。西島と同じく会社を辞めた加瀬亮、西島の見合い相手涼子(竹花梓)がひょんなきっかけでアパートに越して来る。管理人の女性藤子(香川京子)はアパートの近所で小料理屋をやっているが、家主との関係は謎だ。ある日涼子は藤子に店の留守番を頼まれる。藤子は友次郎と温泉旅行に出かけ、帰ったら店を閉めると言う…というお話し。
何と言う事のない日常を強靭な意思を持ったカットで繋いで行く。キャメラ(たむらまさき撮影監督)の主張が大きい分、これがデビュー作の池田監督の「引っ張られ」感は否めないが、それでも涼子と藤子の女性二人へ演出の繊細さは際立っていた。情けなく、頼りなげなモラトリアムな若者達と対比するように、古い思い出の中に生きることで人生の終末を意識する老人達の「青春」のありようは、それ自体は一切画面には展開されてはいないにも拘らず若者達のそれよりも鮮烈で、強く印象に残る。