映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「1000年の山古志」監督・橋本信一 at 第七藝術劇場

2004年10月23日に起きた中越地震が切り立った山に囲まれた旧山古志村(現在は長岡市に併合されている)を襲った。その被災した山里に生きる人々を4年に渡って追い続けたドキュメンタリー。
地震で地形が変形し、川が氾濫、家屋と牛舎を押しつぶした。伝統的な闘牛を育てる酪農家の牛が土砂に埋まって圧死してしまった。我が家へと戻った女性は死んだ牛に「ごめんね」と泣いて謝る。
全壊指定された家屋を見上げるおばさん。腕にしていた時計をはずして手で握りしめる。腕時計は父の形見。その父が建てた家がいま取り壊される。涙ながらにそれを語るおばさん、仮設住宅で90歳を超える母親の介護もしなければならない。しかし、このおばさんは土砂で流された田んぼをつくり直すことに執念を燃やす。
山古志村は観賞用の鯉の産地でもある。震災で何十万匹の鯉が死んでしまう。鯉を扱う業者は「鯉師」と呼ばれる。亡父が鯉師だった男性は、試行錯誤を繰り返しながら後継者を目指す。また、神戸からのボランティアからひまわりの種を貰った主婦は、ひまわりを植え続けやがてひまわり油を産出することを目指す。
個人的には神戸と能登での経験がダブり、涙なくして見ていられない。彼らの「この土地で生きる」という思いは、冬には4メートルも雪が積もるという生きるには過酷なこの集落に於いて、それに反作用するかの如き強靭さである。
特に田んぼを再耕する為に、素手で鉈とカマを振りかざして山に分け入り、水路を切り開くおばさんの執念と体力(撮っているキャメラの方が喘いているのが分かる)。敬服すると共にこの強さは観る者全てに生きる希望を与えると言っても過言ではない。
学校の再開、牛舎の完成、祭りの復活、新しい命の誕生。コミュニティを守るということは即ち、天変地異に耐えて生きる為の先祖の知恵であることが分かる。この映画はそれを思い知る傑作である。都会で鬱々としている方、観ると元気が出ますよ。