養護施設の誕生日会、ギターの弦が切れ、同時に弾いていた男の心の何かが切れる。時がぽんと飛んで、ビルの解体作業現場。巨大な壁なのか柱なのか、コンクリートを大きな掘削機で崩しいてく二人の若者ケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)。飯場には人生を諦めたような人々が溢れ帰り、何故か二人を執拗にいじめる裕也(新井浩文)に苛まれている。かつてケンタの兄(宮崎将)は事件を起こし、更に裕也を刺して服役している。賠償金、という呟きが聴こえるが恐らく裕也には逆らえないのであろう。そんなケンタとジュンはカヨ(安藤サクラ)を拾うようにして付き合い始める。ある日、網走に収監されている兄に会おうと、飯場をぶち壊し、裕也の車を叩き壊し、盗んだトラックに乗って北上する、というお話し。
呟くような、囁くような彼等のナレーションは聞き取りにくく、また彼等の稚拙なボキャブラリーで無知を曝け出す会話にはぞっとするリアリティが潜む。しかしそれは養護施設という小さな世界を取り囲む巨大な社会の壁、飯場のベニヤの壁で囲まれた彼等の部屋という世界の象徴でもある。それはまた掘削機で崩せども崩せども終わらないぶ厚い壁とも重なり、その壁を突き崩すべく疾走した果てには、また壁がある。「人生を選べる人とそうでない人がいる」と呟くケンタ。自分達はそうでない人の方と規定しつつ、兄に絆と憧れを託す選択に希望を見いだす。
ベルギーのダルデンヌ兄弟が描くヨーロッパの貧困層の若者が彼岸のことではないと思ってはいたが、遂に日本映画に於いてそれらが描き出された。しかし冷徹なリアリズムで貫くダルデンヌ兄弟に比べると、闘犬を飼う小林薫のくだりはシュールでもあり、フェリーでカヨに再会して北海道に渡ってからの彼等が内向的に自滅して行く様は幻覚のようでもあり、大森監督の彼等へのシンパシーが垣間見えた。
井筒和幸よりも北野武よりも、大森立嗣が描くこの若者達の傷つけ方の方が数段痛い。
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