野村芳太郎監督特集の一本、1968年松竹作品。
寅さん誕生前夜の渥美清、倍賞千恵子更に佐藤蛾次郎。'68年当時には北九州の炭鉱は既に廃れていたことが分かる。廃坑の周りに住む「泥棒部落」の人々。スリと万引きで糊口をしのぐ集団を「組合」と呼びそのリーダーが渥美清。警察アレルギーで警官や刑事が近づくと蕁麻疹が出る。が、あんまりギャグとしては効いていない。のちの寅さんに比べると硬い動きの渥美清。その昔のスリ仲間に藤岡琢也。大阪弁丸出しの藤岡と、時々江戸弁に戻ってしまう渥美清の九州弁。藤岡は足を洗ってデパートで万引きを捕まえる方に回っているが渥美との縁が切れず、万引き軍団の盗品の故買に手を貸す。このデパートでの万引きロケが凄い。今では絶対不可能。外観だけだが当時の小田急、阪急、丸井、伊勢丹が出て来る。
テンポよく物語は進み、寅さんに於けるさくらと正反対のワリキリ女の倍賞千恵子に惚れてしまうのが渥美。ここはプロセス端折り過ぎで、え、そんな好きだったの?と唐突な運びだがあっという間に夫婦になる。が、この元祖「万引き家族」は熱血刑事有島一郎の奮闘で瓦解に向かう。有島の妻に小津組でいつも天然な女将さん役の高橋とよ。このとよさんが「最近は夜の方もさっぱり」と毒づいて笑わせる。結局藤岡は渥美の犯罪に加担して御用。逮捕現場ロケ地は新宿伊勢丹。後日談の刑務所風景がオマケのようにあっておしまい。
食い詰めた炭鉱夫達が生活の為に疑似家族となって万引き行脚。是枝さん、この映画ヒントにしたんじゃなかろうか。