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「狼をさがして」監督キム・ミレ at 元町映画館

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 良いタイトルだと思っていたら韓国での原題は「東アジア反日武装戦線」という直截なものだった。

 1974年の三菱重工本社爆破事件は記憶の中にある。当時のテレビ報道もうっすら未だ脳裏に存在していて夥しいガラス片が飛び散った路面に横たわる被害者の姿を覚えている。が、そのような映像は本編には1秒たりとも現れない。被害者は誰も出て来ない。

 かの「狼」「大地の牙」「さそり」についてはその命名の理由を含めて松下竜一著「狼煙を見よ」に詳しい。

  本作はこの「狼煙を見よ」の上書きの部分に加えて、主犯とされた大道寺将司の獄中での病死、刑期満了で今では一般社会で生活しているメンバー、そして日本赤軍に合流していた浴田由紀子が20年の刑期を終えて出所、という21世紀の彼らの姿を追う。

  連合赤軍の敗北の後、集団で権力に刃向うのではなく、小さな単位で別個にテロ攻撃を仕掛けるという方法を取った「狼」「大地の牙」「さそり」は権力側を震撼させた。

 「狼煙を見よ」にある、三菱本社での爆弾テロが仕掛けた彼らの想像を超える威力であった、それ故死傷者が多数出てしまった事は本作では触れられていない。従って、冒頭でメンバーの一人だった荒井まり子の母親が「(亡き夫が)まり子のおかげでお友達(支援者)がいっぱい出来たと言っていた」と笑うのは素直に流せずむしろ嫌な感情が湧いた。荒井まり子が実行犯ではないにせよ、だ。

 彼らの反植民地主義の主張へのシンパシーは自由だろう。しかしそれは日帝打倒闘争と引き換えに失われた、あの日そこにいた人々の命の重さとは全く釣り合わない筈だ。

映画芸術」春号のキム監督のインタビューで荒井晴彦編集長の問いに対して敢えて被害者の声は撮らなかった、と答えているがでは被害者とその親族にこの映画を観せる勇気があるのかと問いたい。彼らは観たくもないかもしれないが観る可能性がゼロではないのだ。

 70年代の東アジア反日武装戦線の言う「日帝植民地主義」は彼らがその被害国と規定していた中国が現在同義的な行動を世界中で大規模に実践している。未だ逃亡中とされる桐島聡は同じ空の下何を思っているのだろう。

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