現在の北アイルランド、ベルファストのドローン撮影から1969年へと遡り、カラーからモノクロへと転換される。
なんとなく知っていることではあるが、これを読んでおさらい。
これから映画を観る人には予習になるだろう。
ケネス・ブラナー自身の家族がモデルと思しきプロテスタント家庭の日々を綴る。
ここでの宗教間紛争はかつての反ユダヤ主義によるゲットー設立に似ている。上記のWikiにある'60年代のアイルランドのスタンスは今日のウクライナ戦争をも想起させる。
民族の分断がもたらす悲劇をケネス・ブラナーは現在の社会全体の問題に繋げつつ、実にウィットに富んだ少年時代の下町人情話を描く。
聡明で早熟なバディ(ジュード・ヒル)の父方の祖父と祖母による人生の教訓は示唆に富んでおり、バディもまたそんな彼らを愛し、愛されている風景は普遍的な愛のかたちとして胸を打つ。
殊に祖母役のジュディ・デンチは登場するだけで涙腺を刺激する「お婆ちゃんのものがたり」という普遍性を帯びている。
紛争と貧困、バディの両親は町を出る決意をする。祖父を亡くした後、一人で町に残る祖母の、不意のアップで捉えられる相貌、その言葉に号泣してしまう。そしてそのあとの仕草の見事さは目に焼き付いて離れない。
オスカー助演賞にノミネートされているデンチ、アカデミーは彼女に捧げて欲しいと切に願う。
傑作、お勧め。