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「ビニールハウス」監督イ・ソンヒ at シネリーブル神戸

映画『ビニールハウス』公式サイト

 

 原題訳ではグリーンハウスで、どうやらビニールハウスは和製英語のようだ。

田園に立つ一つの黒いビニールハウスの全景がオープニング。

一つ、というのが異様でコンテンポラリーアートのような象徴性を帯びる。

住宅問題、痴呆症、母子家庭、老老介護、少年犯罪。

これらを安易に並べ立てるネット情報の切り貼りような日本映画とは違い、本作の監督・脚本のイ・ソンヒは冒頭の、強い力を放つ黒いビニールハウスのデッサンから始まって、韓国社会のどこにでもいそうな人物の造形を深く掘り込んで行く。

 ストーリーは関西弁でいう「マンが悪い」の連続である。

ちょっとした挙動が不運を招き、更に悪い流れへを誘う。溝口健二の「西鶴一代女」('52)ほどのヘビー級のマンの悪さに比べると、本作のヒロイン、ムンジョン(キム・ソヒョン)の愚昧さは哀れでありながら滑稽でもある。

犯罪の加害者でも無いのに「マンが悪く」かかってくる息子からの電話で意識が変わり、加害者であることを認めてしまう行動に出る、その行き当たりばったりぶりは、ヒロインに感情移入させない秀逸な演出だった。

 後半はネタバレになるのであまり書けないものの、あのビニールハウスで数日経った死体の臭い、撒いた油の臭いはするはずだろうと演出にご都合を感じる。ムンジョンの母親が口をきかないご都合は目を瞑るとしても、だ。

 編集はシャープ、情に流されない冷徹さは買う。