映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「ポトフ 美食家と料理人」監督トラン・アン・ユン at シネリーブル神戸


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 驚くほどシンプルなストーリーだが料理で愛を伝える、というテーマに特化していて見どころは料理人達が料理をする手つきなのである。

原作があるそうで、原題"La passion de Dodin Bouffant"とは登場人物ドダン・ブファンの情熱。フランス語に疎い私でも意味は伝わる。

料理に賭ける情熱を流麗なキャメラワークで延々と見せつける。

何かしら美食倶楽部のようなグループを従えるドダン(ブノワ・マジメル)が所望する料理を作り続けるパートナー、ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。

劇伴音楽はラスト直前まで一曲も無い。その代わり森に棲息する生き物の鳴き声と、食器の音、包丁の奏でる規則音がひたすらに料理へ注がれる情熱を補完する。いや、それらも美食を彩る環境のエッセンスなのであろう。

 家屋敷内の廊下を人物が奥から手前に縦に歩いて来るショットが繰り返される。それは料理を運ぶ時もあれば、パートナーの寝室へ向かう時もある。電気の無い時代、薄暗いその廊下はどことなく冷たさと不安を感じさせる。そして遂には

愛するパートナーが危篤に陥る時にもその縦の動きで表現される。繰り返しの絶妙。

 ラスト、溝口の「雨月物語」('53)を想起する360度回転ショットにショパン夜想曲2番が重なる。こんな記事↓

conservatoire.fcg.world

 エンドロール、衣装担当のYen-kheに捧ぐ、と出るので亡くなったのか、と思ったら現存するトラン監督の夫人の名前だとか。妻に捧ぐ、と。この映画そのもの。

圧倒的なセンスの良さ。佳作、お勧め。

 

ノクターン 第2番 変ホ長調 Op.9-2

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