どこかの船着場へと向かう数組の大人たち。その会話から極上の料理にありつけるツアーだと分かる。船着場には今ではあまり見かけないであろうひと昔もふた昔も前のメイクと出立ちの中国人女性が招待状をチェックしている。
絵に描いたようなスノッブの料理評論家カップル、品のなさそうな映画俳優と女、これまた居丈高そうな老夫婦、東洋人グループ、そして「食べログ」ブロガーみたいなテイラー(ニコラス・ホルト)と、この男が呼んでいた女の「代わり」で来たマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)。
船はある島に着き、島内のレストランに案内される。シェフたるスロヴィク(レイフ・ファインズ)のショーのような晩餐が始まるが、供される奇妙奇天烈なひと皿ひと皿の料理に「裸の王様」のように絶賛する者、困惑しながら文句を控える者など誰も異論を挟まない。が、ひとりマーゴだけは「なんじゃこれ?」とスロヴィクに反旗を翻す。やがてショーは異常な混乱を引き起こし、客たちは店から出られない事を告げられ‥‥これブニュエルだと途中で気がついた。ルイス・ブニュエルの「皆殺しの天使」('62)と「ブルジョワジーの密かな愉しみ」('72)がベースだろう。
↓この人も気づいている
ミステリーではないが予備知識を入れないで観た方が良いと思うので詳細は記さないが暴力シーンは明らかに北野武の影響が感じられるのでそこはお楽しみに。クレーンで人を吊るして海に沈めるのは「ソナチネ」('93)だ。東洋人の俳優が比較的多く登場する事も監督なのかプロデューサーなのか分からないが指向を感んじる。
物語の「オチ」は途中から大体想像がついていた。これは食が流通経済と情報メディアによって本来的、根源的な愉楽からかけ離れてしまった事への壮大な揶揄である。