映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「やまぶき」監督・山﨑樹一郎 at 元町映画館

映画『やまぶき』山﨑樹一郎監督最新作

 エドワード・ヤンの「恐怖分子」(’86)だ、と本編が始まってからずっとあの映画を想起してみていた。一見関係のない人間関係がある偶然によって繋がって行く。 

 正社員に、と吉報を貰った砕石工場職員チャンス(カン・ユンス)がさる不運に見舞われ、犯罪に手を染めるのはブレッソンラルジャン」('83)も思わせる。

 チャンス、シニカルな役名だ。

「ここではないどこか」へ向かう人々ではなく「どこかから来て(仕方なく)ここにいる」人々。

16㎜フィルム、グレーディングで色を抜いて往年の銀残しのようなルックが品良く、冒頭とエンドロールのタイトルデザインも素敵だ。キャメラフレーミングもフィックスを多用し、動く時も最低限だ。が、突然狂気を孕んでそれが動く交差点での暴力は緊張感をもたらす。「日本から出て行け」、心底嫌な言葉、ゲスい連中。

 後半、濃度と精度の濃い映画的空間から大島渚田村孟かというくらいの観念の世界へと跳ぶ。これをバランスが悪いと取るか、いや止むに止まれぬパッションの噴出と取るか。映画表現が観る者へ届ける方法論は限りなく自由である。さすればやまぶき(祷キララ)の言葉と立ち姿を受け止めよう、この映画は内ではなく外へ開いている。それだけでも素晴らしい。