映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「海猫」監督・森田芳光 at MOVIX六甲

1980年代、函館から峠を一つ越えた漁村の漁師(佐藤浩市)に美しい女(伊東美咲)
が嫁いで来る。過酷な昆布漁、スルメや鰊づくりに体力がついて行かず、また夫との性生活
にもなじめなかった彼女に、画家の義理の弟(仲村トオル)は密かに想いを寄せ、
やがて禁断の河を越えるが…という谷村志穂の同名小説の映画化。
森田監督という人は、試行錯誤もあるが、新作ごとにいつも新しい表現形態を見せて
くれる。いつもそのことを楽しみにスクリーンに向かい合って来た。
が、今回は手堅い。冒頭の、婚約したばかりの男女の諍いのシーンの、平凡な、ありがちな
ルックにすぐに戸惑った。こんな画を撮る人だったか?前作「阿修羅のごとく」の世話場の
リズミカルな楽しさはない。古典的とも言える、美しくか弱い女性を襲う過酷な
運命の物語を「そのまんま」見せ切ってしまう。東宝「阿修羅…」の大ヒットで
ヒットメーカーとしての期待を一身に受け、屋台骨の揺るぎかけている東映
起死回生という任を背負わされているプレッシャーがそうさせたのか、力が入り過ぎ
ている印象。佐藤と伊東の出会ってから結婚までの過程が無いので、いかなる決意を
持って彼女が過酷な漁師一家に嫁いだのか、あるいは佐藤が必死に口説いたのか、
よく解らない。これはこの後の展開全てに響いている気がする。
良いシーンも多く、佐藤と仲村が雨中、最後に対決するシーンは
素晴らしい。伊東は「よく頑張りました」という感じ。

海猫 [DVD]

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