長崎県内と思われる町(劇中では意識的に長崎であることを消去している。
特定すれば原爆の事柄に触れない訳にいかないからか?)、
毎朝、急勾配の坂を上り下りしながら牛乳を配達する美奈子(田中裕子)は、昼間はスーパーマーケットのレジ係を勤める。
一人で暮らし、趣味は読書。
若くして両親を喪い、天涯孤独だが、認知症の夫を抱える女性(渡辺美佐子)とは時々ビールを呑んだりする。
市役所に勤める幼なじみの高梨とは訳あって口のきけない間柄だが、重病で寝たきりの彼の妻(仁科亜希子)は、
ある時、配達された牛乳の空き瓶に、美奈子宛の手紙を忍ばせる。
「一度会って話したい」と。美奈子と会った妻は、自分の死後、夫である高梨を宜しく、と懇願する。
「彼は貴女のことが好きです…」…というお話し。美奈子も、高梨も、その妻もそれぞれが
観念的な恋愛観を持っていて、反発する磁石の同極の如く、抽象的な言語でやりとりするばかりだが、
これは却って映画的純度を高めており、崇高ですらある。高梨が実力で保護に乗り出す虐待児童の家庭、
徘徊する認知症の老人といった今日的な現実を挟むことで観念的な人間関係に緊張感を挟む構成は絶妙だ。
デビュー作「独立少年合唱団」('00)では力一杯の豪速球だったが、今作では精緻で繊細な印象。
役者は例外なく一流の名演。傑作、お勧め。午前中1回上映だが、お客はよく入っていた。
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- 発売日: 2006/02/24
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