映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

「母べえ」監督・山田洋次 at 109シネマズHAT神戸

1940年の東京、ドイツ文学者野上(坂東八十助)は治安維持法違反の疑いで逮捕状のないまま当局に拘留される。残された妻(吉永小百合)と二人の娘のもとに、野上の教え子だった山ちゃん(浅野忠信)と、野上の妹(壇れい)が駆けつけ、何くれと面倒を見る。が、やがて日本は太平洋戦争に突入、一家は過酷な運命を辿る、というお話し。
物語の構成をなぞって感想を述べるのはもどかしいほど全てのシーンが胸に突き刺さる。浅野忠信はあらゆる意味で素晴らしいし、吉永小百合吉永小百合にしか出来ない名演だ。すき焼きやカステラを我慢させられる子供達のひもじさは哀切の限りだし、確信犯的に浮いている笑福亭鶴瓶も計算ずくの演技。が、山田洋次監督は返す刀で生卵をすする祖父(中村梅乃助)の汚らしい俗物ぶり、人は良いが極めて凡庸な炭屋の親父(でんでん)と、所謂「善良なる市民」の罪をあぶり出す。戦後、戦争犯罪者として無罪有罪を問わず裁かれた軍関係者に反して、裁かれることも批判されることもなかったであろう特高警察や、「贅沢は敵だ」と徒党を組む主婦達のような連中は一体どうなったのだろう、ケロッと居直って生きて行ったに違いない。
これは黒木和雄監督の戦争三部作やクリント・イーストウッド監督の硫黄島二部作に対する山田監督なりの返歌であり、「三丁目の夕日」シリーズに対する異議申し立てなのであろうと見た。傑作、必見。

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