映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

                         

「ナイトクローラー」監督ダン・ギルロイ at シネリーブル神戸

LAの夜、コソ泥ブルーム(ジェイク・ギンレイホール)は盗んだ金属を金に換えた帰り道、交通事故現場に駆けつけて撮影するビデオカメラマン達に遭遇。彼は一念発起して中古のソニーのビデオを引っさげボロいトヨタを駆りながらその真似事を始める。素人で無駄打ちばかりしでかすが、ある銃撃現場の被害者を執拗にとらえることに成功、このフッテージがテレビ局に売れたことで彼のハイスピードなキャリアアップが始まる‥というお話し。このキャリアアップが美しい血と汗と涙の努力なら面白くもなんともなく、倫理感に欠けている上ネットで仕入れた経済学と自己啓発法を信じ込んでいる特異なキャラクターで「思い描いたステージ」へと駆け上がっていく様は、痛快の反対、不快なのにスリリング、しかしこれぞ病んだ現代アメリカという臨場感がある。
世界中で延々と戦争をしながらキリスト教的価値観で踏みとどまっていたアメリカも、21世紀の格差社会の固定化で経済と倫理のバランスが崩れてしまった象徴のような映画である。シドニー・ルメットがテレビの視聴率競争を痛烈に批判した「ネットワーク」('76)を思い出すが、インターネット社会の今、アメリカ(いや、どこの国もだ)のメディアはあの頃から病を進行させているようにも思える。ISの蛮行の映像にもそのうち慣れてしまうのが人間だ。
ネタバレになるので控え目に書くが、あのラストは従来型のハリウッドプロデューサーなら許さないだろう、痛烈にアイロニカル。佳作。