映画的日乗

映画、食、人。西に東に。

「フェアウェル」監督ルル・ワン at 宝塚シネピピア

www.imdb.com オープニングはNY。猫背でポーカーフェイス、失礼ながら亀のようなずんぐりむっくりのビリー(オークワフィナ)は北京の祖母ナイナイ(チャオ・シューチェン)と携帯電話で近況報告。ナイナイの方は病院で検診を受けているようだ。

 幼い頃に北京からNYに移住したビリーは両親とも英語で会話。中国語はままならない。程なくナイナイが肺癌で余命3ヶ月と知り、ビリーの従兄弟(父の弟の息子)の結婚式を口実に北京に一族が集まる。中国では癌告知、余命告知はタブーらしく、一族はナイナイの前では普通に振舞う。本作の中国語の原題「別告訴她」は彼女に言わないで、の意。

 ビリーはすぐ感情が露わになるから、という理由で当初は北京に呼ばれないが仕事のつまづきもあって自発的に北京にやって来る。

 ビリーが子供の頃の記憶を手繰るように北京の街並みを見上げるように眺めるショットが印象的。急速な開発は景観などお構いなしで自然の緑は殆どなく、街全体が赤茶色とグレーという不均衡な色で覆われている。

 ビリー一家にはもう帰る家がなく、ナイナイの家に泊まる訳にはいかないのでホテルのワンフロアに泊まり続けなければならない故郷喪失の皮肉な画も効果的。

 冠婚葬祭は先に東京国際映画祭で観た台湾の「弱くて強い女たち(孤味)」と同じく大家族主義の中華民族にとって不可欠の儀式だ。

 本作では結婚式が盛大に描かれる。ビリーの従兄弟の結婚相手がいつもニコニコ笑っている日本人女性なのは良いが何で歌う唄が「竹田の子守唄」なんだ?と思ったらこういうことらしい。テキトーな選曲ではなかった↓

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 ルル・ワン監督はソフィア・コッポラも多用するフィクスの画をひたすら重ねる。小津か加藤泰かというくらいの拘りだが結婚式で一気にキャメラが動く。そういう狙いだったのだろう、式の途中で抜け出したビリーが病院が発行する診断書を偽造する為に北京の街を疾走する姿をキャメラは追う。

 肺癌で余命3ヶ月、の割には風邪くらいにしか見えず、元気で食欲旺盛のナイナイは不自然に見えて仕方がなかったがエンディングでオチが付く。脚本も兼任しているワン監督の実の家族の物語であることはこれで分かるのだが、最後の診断書をビリーが中国語が読めないから分からないというのは後から思うとご都合主義。 

 パーソナルな家族の物語だが生きる為に米国に渡り、久しぶりに祖国に帰ってみたら母なる国中国はすっかり変貌してしまって居場所がなくなっている。国に縛られない自由を得る代わりに帰属する国を喪失した一抹の寂しさ。

ラスト、NYの街角を思索しながら歩くビリーの無表情がそれを物語っている。