www.thelastfullmeasurefilm.com Full Measure は「完全なる対価」とでも訳すか。新約聖書にもしばしば使われているようで、神を信仰することで与えられる完全なる対価が幸福だとすれば、ここでは一人の兵士が国家に殉じた事への完全なる対価を問うている。
実話がベースとのこと。
1966年のベトナムに於ける米軍第一歩兵師団がベトコンの待ち伏せ攻撃に合い多くの犠牲者を出すが、一人の名もなき空軍兵士の勇敢な行動によって全滅の危機を免れる。 当のピッツェンバーグ上等兵(ジャーミー・アーヴィン)は戦死、生き残って帰国した兵士達は彼に最高位の名誉勲章を与えるべく運動をするが何故か却下されたまま32年の時が過ぎる。
戦闘シーンのロケ地はタイらしい。この記事は事実と映画を比較していて面白い。
映画はペンタゴンに一人の元曹長(ウィリアム・ハート)が訪ねるシーンから始まり、前途洋々出世欲満々のエリート官僚スコット(セバスチャン・スタン)にピッツエンバーグへの勲章授与の為の再調査を依頼する。
スコットは年齢的にはベトナム戦争終戦後の生まれなのであろう、その知識がなく当初は気の進まないお役所仕事としての調査だが元兵士達に話しを聞くうちに気が変わっていく。
今は亡きとても良い奴を、彼を知る人々の証言でその人物像を浮かび上がらせる、そう「横道世之介」(2013)の構成だ。
もっともこちらは過酷な戦場がその過去として挿入されるので悲哀の度合いが違う。
元兵士達にピーター・フォンダ、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリス。
ピッツェンバーグの父親にクリストファー・プラマー。
嗚呼1970、80年代の映画俳優。
極め付けは終戦後帰国せずベトナムに残っているという男にジョン・サヴェージ。「ディア・ハンター」('78)でベトナム戦争で負傷して半身不随になって帰国する男と否が応にも重ねてしまう。
ウィリアム・ハートは「再会の時」('83)でもベトナム帰還兵だった。
監督かプロデューサーかはいざ知らず、これらのキャスティングはアメリカ映画史を強く意識している筈だ。フォンダもプラマーも本作が遺作となってしまった。
横道世之介並に善人であるピッツエンバーグがPTSDを抱えた元兵士達の「自殺する勇気を押しとどめている」心の支えである事を次々に吐露していく。ウィリアム・ハートの魂揺さぶる慟哭は観ているこちらもつられて涙を禁じ得ない。この人のここでの演技の凄みは「蜘蛛女のキス」('85)以来ではないか。
そのウィリアム・ハートの凄みにいざなわれて、後半は怒涛の名誉回復、Full Measureへとなだれ込む。
号泣であった。
勲章授与を阻んでいた政治的理由の黒幕の一人も授与式で拍手していて改心しているように見えてしまうのは楽天に過ぎないかと思ったが、最後の最後、今一度ピーター・フォンダを登場させて締め括るセンスを褒め称えたい。
佳作、地味に公開されているが長年アメリカ映画を見続けている人には胸に沁みる何かがある筈。