映画和日乗

映画、食、人。西に東に。

「アンモナイトの目覚め」監督フランシス・リー at 宝塚シネ・ピピア

www.see-saw-films.comどこかの海岸線沿いの町。資料によるとライム・レジスという町らしい。

www.lymeregis.org

ライム・リージス [Lyme Regis] | イギリス観光

なるほど化石の町か。

 電気がない中、コリコリとペンを使って画を描くメアリー(ケイト・ウィンスレット)。19世紀か。のちのレストランのシーンでワインをオーダーする時に指定していた生産年で19世紀半ばかと想像する。

 曇天の海岸で黙々と化石を発掘するこの古代生物学者は年老いた母と自営の土産物屋でそれを売ったりもしている。ある時身なりのきちんとした紳士とその妻が化石を所望する為に訪れるのだが、目的はそれだけではなかった。紳士曰く妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)は鬱病気味なので、転地療法として預かってもらえないか、お金は払うから、と。

 ビジネスと割り切ってシャーロットを預かるメアリー。どこが鬱病なのか奔放なシャーロットに仏頂面だが優しく接するメアリー。この辺で気が付く。1月に同じ劇場で観た「燃ゆる女の肖像」(2019)と設定もモチーフも一緒である。

「燃ゆる女の肖像」監督セリーヌ・シアマ at 宝塚シネ・ピピア - 映画的日乗

 こういう映画が同時期につくられるのは時代の要請なのだろう。

 ただ、本作が「燃ゆる‥」と違うのは英国特有の階級による溝が描かれている点。メアリーがシャーロットを伴って行った音楽会でシャーロットと親しげに話す婦人(フィオナ・ショウ)がのちにメアリーに語るシャーロットの文化的素養。そこに嫉妬するメアリー。

 メアリーがロンドンのシャーロットの家を初めて訪ねた時出てきた使用人がメアリーの服装だけを見て「裏口に回って頂戴」と言い放つ。

 メアリーという人は何重にも抑圧されている。母、化石を巡る学会、そして性。後半ちょっした驚きの人間関係が明かされるが、それは以前から性が抑圧されていた事を物語る。

 しかし輝くばかりに若く美しいシャーロットによって性が解放され、母の死で「これ幸いに」とそれが加速する。が、そこに立ちはだかるのが「育ち」による人生観の差異だった。母の呪縛からは解放されたが、愛もまた束縛を伴う。

 果たしてメアリーは個に立ち返って己の道を歩むのだろうか。ラストその辺りはっきりとは描かれていない。

 エッジの効いた編集、撮影、タイトルデザインなど気品あるセンスは秀逸。